2025.5.5
「28-29シーズンの入場者数700万人」が目標! 大成長を遂げるBリーグの現状と未来予想図 【重版出来!島田慎二チェアマンインタビュー】
今回はその重版記念として、2026-27シーズンからスタートする「B.革新」の現状と書籍内で言及していた内容との答え合わせを含め、島田チェアマンに、たくさんのお話しを伺ってきました。
(取材・文/田口元義 撮影/藤澤由加)

2022年の書籍出版から入場者数も営業収入も大幅に伸びているBリーグ
――島田チェアマンの著書『最強のスポーツクラブ経営バイブル』が出版された2021-22シーズンは、Bリーグ全体の入場者数は158万人で、営業収入は372億円でした。それが2023-24シーズンには、それぞれ452万人と632億円と、大幅に増加させています。
「お陰様で有言実行できているのかな、と実感しています。この本を出した前提として、当時は新型コロナウイルスの感染拡大によりBリーグの経営も苦しかったので、クラブ支援の想いが強かったんです。ただ、私が20年にチェアマンに就任してから、『スポーツの価値で社会貢献していくためにはどうしたらいいのだろう?』と危機感は常に持っていました」
――具体的な危機感として挙げるとすれば?
「クラブ運営に懐疑的でした。競技面、事業面ともに成長するような仕組みにしていかなければと思っていました。私が千葉ジェッツの社長をしていた10数年前から、<クラブの成長なくしてリーグの発展なし。リーグの発展なくしてバスケ界の繁栄なし>を個人スローガンとしてきましたので、クラブの価値の集積体になるようBリーグがどのように導けるか、と考えていきました」
――クラブの成長へ向け島田チェアマンが掲げたのが、著書にもある「B.革新」でした。「年間売上12億円以上」「年間平均入場者数4000人以上」「入場可能数5000人以上、スイートルームなどが設置されたアリーナの所有」などの条件をクリアできたクラブのみが参入できる「新B1」(2026-27シーズンからスタートの「B.LEAGUE PREMIER(以下、Bプレミア)」のこと)についてもかなり具体的に言及されていましたね。
「各クラブが『試合に強ければいいだろう』というチームオペレーション重視のマインドセットから、いったん『たくさんのお客様に試合を観てもらわないと意味がない』と、ビジネスオペレーションとしての経営改善に強制的にマインドセットしてもらうためでもありました」
――その改革の大きなきっかけとなったのが、琉球ゴールデンキングスのホームとして21年に「沖縄アリーナ(現、沖縄サントリーアリーナ)」が誕生したこと。この地で開催された23年のワールドカップで、日本代表が3勝を挙げて自力でパリオリンピックへの出場権を獲得したことも欠かせない出来事でした。
「極論を言ってしまえば、このふたつだけです。書籍で何度も伝えた“夢のアリーナ”が沖縄にできたことで、各クラブの社長が地元自治体の首長を連れて視察に来てくれ、クラブの成長を実感してくれました。それが各地域に伝播していったことが大きかったです。
そこに、あのワールドカップでの日本代表の活躍です。『無風でも結果を残す。そして、風が吹いたらもっと結果を残す』という私のポリシーのもと、大企業にM&Aでの資本参画などを積極的に呼びかけました。ジャパネットたかたさんが賛同してくれた長崎ヴェルカのハピネスアリーナ。オープンハウスさんが協力してくれた群馬クレインサンダーズのオープンハウスアリーナ太田。佐賀バルナーズのSAGAアリーナと、ワールドカップがあった23年を契機に『アリーナ構想』の輪も広がっていきました」
想定以上に伸びた「Bプレミア」の参加クラブ数のワケ

――その結果として、著書では18クラブと想定していた「Bプレミア」のクラブ数が、26クラブと飛躍的に伸ばせました。
「じつは当時、現実問題として『10クラブいくかな……?』と思っていました。それが、いざ蓋を開けてみたら26クラブまで増やすことができ、各クラブの頑張りには本当に頭が下がります。もともとは、Bプレミアの18クラブを頂点に『旧B2』としていたB.LEAGUE ONE(以下、Bワン)、『旧B3』としていたB.LEAGUE NEXTと、ピラミッド型のカテゴリーを形成しようと考えていたんです。
Bプレミアに加入できるクラブが26と増えてしまった現実を受け入れ、私の独断で『増やします』と決定した際には、多くのクラブの社長から『ゴールポストをずらし過ぎだ』といったご意見もいただきました。ですが、Bプレミアという大きなマーケットで切磋琢磨したほうが、クラブも必ず成長できます。まさしく、<クラブの成長なくしてリーグの発展なし>です」
――Bプレミアに参入するクラブのなかには、アルティーリ千葉や富山グラウジーズ、そして今年完成したGLION ARENA KOBEをホームとする神戸ストークスと、今シーズンB2所属のクラブもあります。著書でも島田チェアマンが強調されていた「地方創生」も着々と実現できていますね。
「幸運だったのは沖縄からはじまり、群馬、佐賀、長崎と地方から夢のアリーナが広がってくれたことでした。これが東京などの都市部からスタートしていれば『人が多い大都市だから当然』と思われてしまったでしょう。多少、表現に語弊があるでしょうが、『群馬や佐賀でできるなら』と、他のクラブや地域の士気が高まったと思います。実際にSAGAアリーナでアーティストのライブなどのイベントを開催すると、チケットが売り切れたり、ホテルが満室になったりと、私が目指すスポーツ観光事業の要素も色濃く反映されてくるわけです。今年は神戸をはじめ、アルバルク東京と名古屋ダイヤモンドドルフィンズにも新アリーナが誕生するので、ますます地方創生が活性化していくでしょう」
――Bプレミアについて島田チェアマンは、「条件を満たせばクラブ数をエキスパンション(拡大)していく」と言っています。クラブが増えることによって戦力格差が生じる懸念もありますが、どうお考えでしょうか。
「今後、改善していく予定ではありますが、2026-27シーズンのBプレミアでは各クラブのサラリーキャップを『総額5億円から8億円』に定め、この範囲を上下とも逸脱してしまえば『リーグから降格』とみなします。これまでのB1では極端な話、選手の人件費が10億円のクラブと2億円のクラブという戦力差があったので『それをやめましょう』と。サラリーキャップの差が最大でも3億円ということは、いくらクラブに資金力があってもマネーゲームで勝負することができないということになります」
――つまり、26クラブ全てのチームに優勝のチャンスが芽生えるということですね。
「そういうことです。『地方創生リーグ』を目指す上で重要なポイントになります。仮に2026-27シーズンで最下位だったとしても、ビジネスオペレーションでうまくやりくりし、安くいい選手を獲得できれば勢力図が一気に変わり、優勝を狙える可能性も出てくる。そういった期待感があれば、ファンのみなさんも毎シーズン、希望や危機感を抱きながらクラブを応援できると思うんです。つまり、みなさんの心がクラブから離れづらくなる。ここが持続できなければ入場者数や売り上げにも影響が出て降格してしまいますから、クラブもビジネスオペレーションをより引き締めるようになる。互いの相乗効果によって、地域が活性化されていくわけです」
――一方で島田チェアマンは競争意識を煽るだけでなく、「地域に根差していれば旧B2に留まってもいい」と著書に記しています。
「もちろんです。全クラブの巨大化などは推奨していませんので。先ほどピラミッド構造の話をしましたが、現状ではBプレミアのクラブ数が最も多い、逆ピラミッド状態になっています。Bリーグとして地域創生を目指していく以上は、下のカテゴリーにもモチベーションを高くしてもらわないといけないので、Bワンへの参入条件を『売上4億円以上』は据え置きとして『平均入場者数2400人』を1500人とし門戸を広げました。そうすることで、現B3のクラブもさらに経営努力をしてくれるようになりました。小規模だけど条件を満たせるほどの経営状況で、地域からも愛されている。そういうクラブもひとつの在り方ですし、リーグ全体としても多様な個性を提供できるので意義はあると思っています」