2021.8.11
直木賞作家・佐藤賢一さんが薦める、これを読めば「宗教」がわかる小説5冊
『緋色の研究』(コナン・ドイル、新潮社他)
アーサー・コナン・ドイルが1886年に執筆した長編小説。シャーロック・ホームズシリーズの最初の作品で、ホームズとワトスンの出会いと、その後起こる殺人事件が描かれている。
「いわずと知れたシャーロック・ホームズ物の長編です。かの名探偵といえば、19世紀末のイギリス、ロンドン、ベーカー街ですが、そこに持ちこまれた殺人事件を追ううちに、遠いアメリカの出来事に打ち当たります。キリスト教、それもプロテスタントのさる一派が力を振るう社会のなかで、事件の元になる悲劇は起きていたのです。アメリカというのは「自由の国」とかである以前に、まずもって宗教コミュニティだったのだと、作中のイギリス人たちと一緒に驚くことになります」
『服従』(ミシェル・ウエルベック、河出書房新社)
2022年にイスラム政党が政権を奪取し、フランス共和国に樹立するという近未来を、文学研究者である主人公の視点で描いた小説。発刊日が、イスラム過激派による週刊風刺誌「シャルリー・エブド」社襲撃事件の当日(2015年1月7日)と重なったこともあり、フランスはのみならず世界各国で大きな反響を呼んだ。
「フランスがイスラム教の国になる──といっても、冗談にしか聞こえません。現代のフランスには、多くのイスラム教徒が暮らしている。そう承知して、なおリアリティは薄いのですが、その年の大統領選は国粋的な極右政党の党首と穏健派イスラム政党の党首の一騎打ちとなり、究極の選択を迫られた末にフランスは──というふうに書かれると、フィクションながらも考えさせられてしまいます。イスラム教の国になり、法律、制度、習慣が変わり、それがあながち不幸でもないとなると、近代ヨーロッパが進めた政教分離とは何だったのだろうと、にわかに首を傾げることにもなって……」
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いかがでしたか?
西洋歴史小説第一人者・佐藤賢一さんが薦める、宗教がわかる小説5冊。
各宗教の成り立ちや信仰を知れば、西洋を舞台としたドラマや映画への理解もぐっと深まり、より楽しめるようになるはずです。
自粛生活中のお供に、今回ご紹介した本を手にとって、じっくりと読んでみてはいかがでしょうか。
宗教史をもっと学びたい人は…
『よくわかる一神教 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教から世界史をみる』は、西洋歴史小説第一人者・佐藤賢一さんによる世界史講義の書。
イスラエルとパレスチナの衝突。世界各地で勃発するテロ。その背景の根深い宗教問題――。同じエルサレムを聖地とするユダヤ教、キリスト教、イスラム教をめぐる約三千年を追いながら、日本人がわかりにくいと思われるポイントを整理し質問形式で世界史を読み解きます。
十字軍、異端、ジャンヌ・ダルク、ガリレオ、カフカ、アンネ・フランク他、関連コラム、図版多数掲載。
歴史の中に、鍵がある――。
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