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「受験直前期の家族に何が起こるのかをしっかり描いているので、シミュレーションとしてぜひ読んでほしい」 【おおたとしまさ『中受離婚』刊行記念インタビュー】

夫婦が異なる価値観を持っていれば2通り以上の対処ができる

――なるほど。だからこそ、夫婦間、また子どもも含めた親子間で、いろんなスタンダードの違いがあぶり出されるのが中学受験期であることを知っているだけで、「中学受験クライシス」への対処が異なってきそうですね。

「夫婦でも違えば、子どもも違います。努力の仕方、頑張り方の価値観でも、3種類あったりすると思います。ただし、このとき親の役割の大原則は、子どもがやりやすいこととか、その子らしい頑張り方を一緒に見つけてあげるサポート役に徹することです。
夫婦にそれぞれの意見があり、異なる価値観を持っていてもいいと思います。ただし、お互いの価値観を、共感はしなくても、理解はしてあげるスタンスが大切です。そして、子どもの状況に応じて、これは自分の側に少し引き寄せてあげたほうがいいなとか、あるいは、ここは相手に任せるかなって判断してサポートすればいいんです。
ふたりの価値観がズレていることをダメと思わず、関わる手段が2通りある、2つの方向から働きかけることができると思ったほうがいいです。もし価値観が一緒だったら1通りしか関わり方がないわけですから。ズレてるからこそ2通りあるとも言えるし、この2通りの間にグラデーションができるからこそ、いろんな対応ができるわけです。
だから、中学受験クライシスを乗り越える方法としては、ズレていることが価値であると思えるかどうか。ズレていることを悪いことだと思い込んで、どちらかに一致させようとして綱引きを始めちゃうから、やがて大きなトラブルになってしまうんです。それは不毛な争いです」

「夫婦の価値観がズレていることをダメと思わず、関わる手段が2通りあると思うほうがい」。
「夫婦の価値観がズレていることをダメと思わず、関わる手段が2通りあると思うほうがい」。

――最も大事なのは子どもの受験のはずなのに、子どものことを抜きに、親がどっちが頑張ってるか、どっちが正しいやり方なんだという綱引きになっていることが多い?

「はい。例えば、ロールプレイングゲームで自分のパーティー(複数のキャラクターからなるチーム)が敵と戦うときに、魔法で戦うのか剣で戦うのか、どっちの戦術も取れるってことがありますよね。この敵は魔法に弱いから、ここは魔法使いに頑張ってもらおうみたいなシーンってあるわけじゃないですか。だけど、それをパーティーの内輪で、『魔法と剣と、どっちが強いか力比べしようぜ』みたいになっちゃってるんです。僕なら、『このパーティーは両方持っていていいじゃん。剣士と魔法使いは、それぞれリスペクトすればいいじゃん』って思います」

――わかりやすい!

「だからこそ、その中心にいる子どもが今どんな状況なのかを、親はしっかり見てあげなければいけないということですよね。
受験勉強が自分事になってきているのかとか、勉強を面白がっているのか、苦行だと思っているのかとか。その辺の子どものコンディションというのを夫婦がしっかり見てあげて、そのときに最適な方向を冷静に見極めて、背中を押してあげるということでしょうね」

――親もきっとそうしたいはずです。だけど、子どものやる気とか思いとかは温度計のようにさっと数値として測れるものでないから難しい……。

「はい。だから僕は、シンプルに子どもの目が生き生きしているかを見てあげることをおすすめしています。
塾の通常授業も特別講習もしんどいと思っていて、へとへとだけど、でも今日一日やりきって達成感があった、みたい時は悪い目はしていないと思うんですね。だけど、どんなにいい成績を取っていても、心がしんどい状態で取り組んでいる時っていうのは、勉強を終えても達成感がなく、また、つらい明日が来るのか……みたいな死んだ目になっているはず。親はその目の輝きをしっかり見ておけばいいっていう考えです。
目の輝きがちょっと濁ったなと思ったら、夫婦で何がおかしいんだろうねと話し、あれこれ考えてみる。もしかしたら、おいしいケーキを買ってくるだけで解決するかもしれないし、ちょっと疲れてるんじゃない?って気遣いの言葉をかけるだけでもいいかもしれない。逆に、もっとできるはずだよってハッパをかけてあげることもいいのかもしれない。そこは親の勘です。一発で正解じゃなくてもいいので、夫婦がそれぞれ思ったことを言って、すり合わせて、恐る恐る試してみればいいと思います。どうやったら成績が上がるかな、どうやったらやる気を出すのかな、みたいな下心ではなく、シンプルにどうやったら我が子がいい目をするかっていうところに焦点を当てるべきだと思います」

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おおたとしまさ

おおたとしまさ/教育ジャーナリスト。
1973年、東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育媒体の企画・編集に関わる。教育現場を丹念に取材し斬新な切り口で考察する筆致に定評があり、執筆活動の傍ら、講演・メディア出演などにも幅広く活躍。中学・高校の英語の教員免許、小学校英語指導者資格をもち、私立小学校の英語の非常勤講師の経験もある。著書は80冊以上。

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