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特別講師に豊田章男、井上康生、ホリエモン。岡田武史が学園長のFC今治高校で目指す、ロールモデルのない時代に大切な「エラー&ラーン」教育

2025年シーズンからJ2で戦う岡田武史会長のFC今治。その挑戦は、サッカーチームを強くするだけでなく、愛媛県今治市という地方都市のコミュニティの在り方の変革も込めた異例のものだった。
第3回目のテーマは教育。2024年春に自らが学園長となって開校した「FC今治高校」で目指す教育とは?
(文中敬称略)

(取材・文/二宮寿朗 撮影/近藤 篤)

2024年4月に開校した「FC今治高校里山校」。毎週3時間、野外活動と環境教育が必修授業となっている。(写真提供/FC今治)
2024年4月に開校した「FC今治高校里山校」。毎週3時間、野外活動と環境教育が必修授業となっている。(写真提供/FC今治)

岡田武史を学園長とする高校が開校

 岡田武史は「FCI」の大きな文字が入るお揃いのジャンパーを着込んだ高校生たちとハイタッチをしていた。
 J2昇格を決めて臨んだ、アシックス里山スタジアムでのホーム最終戦(11月24日)。ハーフタイムにFC今治高校(FCI)の生徒がダンスパフォーマンスをする前、振り付けを担当したEXILE TETSUYAとともに岡田が笑顔で送りだした。サッカーを観る顔つきはいつも厳しいが、高校生の前では「岡ちゃん」と呼ばれて柔らかい表情になる。

 地方の少子高齢化、過疎化が進む影響で愛媛県内の高校も定員割れが課題となっている。岡田は理事を務めていた学校法人「今治明徳学園」から打診を受け、矢田分校を「FC今治高校里山校」として2023年4月に学園長に就任した。第一期生として34人が集まり、今春に開校した。
 筆者からすれば「学園長」は意外ではなかった。FC今治を運営する「株式会社今治.夢スポーツ」の事業として、キャンプや山歩きなど自然と触れ合う「しまなみ野外学校」や、若いリーダーを育成するワークショップ「バリチャレンジユニバーシティ」など、岡田が教育にも積極的に関わってきたからにほかならない。
 よく勘違いされるが、FC今治高校はサッカーを教える学校ではない。共助のコミュニティをつくるリーダーを育てていくためには今までにない教育が必要だと感じ、「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」を企業理念とするFC今治の名を取り入れ、自ら先頭に立つことになったのだ。

先生は「コーチ」、学園長は「岡ちゃん」?

 斬新なアプローチになっている。
 教科の必修授業は午前中、そして午後は実学が中心になる。少人数で地域に出て学ぶ「里山未来創造探求ゼミ」、農業体験や地場産業体験などの「ヒューマンディベロップメントプログラム」、エポックメーカーによる特別講演・ワークショップの「ヒストリック・キャプテンシップ養成講座」などが設けられ、アシックス里山スタジアムも授業で活用されている。定期テストはなく、単元テスト制にしているのは学習速度を確認する目的だという。個別最適と協働の両方を重視し、地元住民との交流も多く人間力を高めるカリキュラムになっている。
 先生を「コーチ」と呼ばせ、学園長も「岡ちゃん」でOK。校則もなく、制服もなく、自由を重視するため4月にスタートしたころは、大変だったとこぼす。

「絶対にやっちゃいけないことが3つあって、それは命にかかわること、法律に違反すること、人の成長を妨げること。これ以外のことは自分たちで判断していこうと言ったんだけど、最初の1カ月はまあいろんなトラブルが起こるわけ。それでも生徒たちは時間をかけながら落ち着きどころを見つけてくれて、顔を合わせると『岡ちゃん、この学校、最高に楽しい』と言ってくれるんだよ」

 苦笑いでもあり、照れ笑いでもあり。手探りで始めて最初はうまくいかなくても、修正しながら学んで成長していく。その学校の姿勢が、生徒の成長を呼び込んでいる。

「ロールモデルのない時代だから、本を読んだだけじゃ答えはわからない。だから失敗はするし、そこから学んでいかなきゃいけない。トライ&エラーじゃもうなくて、エラー&ラーンが大切なんだよ」

 コーチには、こうしなさい、ああしなさいと言わないことを徹底させている。「どうしたの?」「それで君はどうしたいの?」「コーチに何か手伝えることがある?」この3つを繰り返すのだという。見守り、寄り添うことがコーチの基本姿勢。放任とは、まったく違う意味合いだ。

「親や大人がホイホイとヒントを与えてしまうから、子どもも“どうすればいいの?”とすぐに聞いてくる。放っておけば自分でやらざるを得なくなる。これまでは失敗しない方法を教えていればいい時代だった。間違いのない、早く解決する能力とでもいうのかな。でもそれってChatGPTとかAIがやるわけよ。さっきも言ったみたいに、これからは先がわからない時代。例えばドバイで洪水が起こる。前例がないから過去に答えを求めても誰もわからない。だからこそ失敗して学んでいくしかない」

 授業で投資に興味を持ったら「投資部」をつくるわ、漁業に興味を持ったら朝5時に魚市場に手伝いに行くわ、生徒たちの行動が次第に積極的になっていく。基本的に生徒からの要望を認めるようにしているが、ビーチバレー用のコートをつくりたいとする声には「勝手にグラウンドを掘らんでくれよ」とさすがに待ったをかけたとか。

生徒たちは学園長を「岡ちゃん」と呼ぶ。 「ロールモデルのない時代。トライ&エラーじゃなくて、エラー&ラーンが大切」と説く「岡ちゃん」。(写真/近藤 篤)
生徒たちは学園長を「岡ちゃん」と呼ぶ。 「ロールモデルのない時代。トライ&エラーじゃなくて、エラー&ラーンが大切」と説く「岡ちゃん」。(写真/近藤 篤)
入学して初めに取り組む野外体験教育「四国お遍路チャレンジウォーク」。 1期生から3期生までがタスキを繋ぐようにリレーしながら、3か年かけて八十八カ所制覇を目指す。(写真提供/FC今治)
入学して初めに取り組む野外体験教育「四国お遍路チャレンジウォーク」。 1期生から3期生までがタスキを繋ぐようにリレーしながら、3か年かけて八十八カ所制覇を目指す。(写真提供/FC今治)

一期生の生徒たち完全主導の「オープンキャンパス」

 岡田を驚かせたのが、今夏のオープンスクール。生徒たちから「企画と運営をやらせてほしい」と言われたことだった。

「俺も最初は『大丈夫か?』と聞いたんだよ。そうしたら『大丈夫です』と。『余計な口出しはしないでください』とも言われて。でも、オープンスクール当日になっても、何をやるかまったく報告がない。『学園長は何かやらなくていいのか?』と聞いても、『別に何もやらなくていいです』って返してくる。本当に大丈夫かなと思ったら、人が満杯になった講堂で、『私たちの学校はこうだ』ってきちんと説明していたし、こっちの部屋では(希望する)保護者と在校生のワンオンワンで、あっちの部屋では中学3年生と(在籍の)保護者のワンオンワンで話ができるようにしていた。実によくできていたと思う。感心して見ていたら、最後に『ちょっと時間が余りそうなので、岡ちゃん何かスピーチしてください』って(笑)」

 第一期生は定員80人のうち34人にとどまったが、オープンスクールには多くの人が詰めかけ、関心が広がっていることを岡田自身、実感できた。生徒たちの手づくりによるオープンスクールが、何よりこの学校のやりたいことを表現してくれた。

 FC今治高校は寮を完備しているが、3年生になったら退寮するルールが設けられている。町に出て、町に住むことが、共助のコミュニティにもつながると考えたからだ。学校として空き家を改修してルームシェアをする準備も進めているという。

「本当のことを言えば、3学年揃うと今ある寮の部屋が足りなくなるんだよ。寮をもう1つつくるわけにもいかないから、それだったら町に住めばいいじゃないか、と。生徒たちは『ボヤージュ(FC今治の試合ボランティア)』での活動もやっているから、そこで出会った方たちに郷土料理を教えてもらって、その家で食べさせてもらったり。みんないろいろともう動き出しているんだよ」

 クラブが手掛ける米づくりにも、生徒たちは参加している。毎年300キロほどになる米を児童養護施設に寄贈したり、スタジアムで提供したりしている。FC今治が目指す共助のコミュニティ。その芽がFC今治高校の開校によって一歩ずつ動き出していることは間違いない。

スタジアムを中心としたコミュニティづくりのひとつに教育がある。近い将来、この地に校舎を建てる構想もあるとか。(写真/近藤 篤)
スタジアムを中心としたコミュニティづくりのひとつに教育がある。近い将来、この地に校舎を建てる構想もあるとか。(写真/近藤 篤)
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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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