2025.1.1
日本人の海外流出が止まらない! 移住前に知っておきたい「リスク」と海外と地方をつなぐ「ネットワーク」の存在【大石奈々メルボルン大学准教授インタビュー前編】
――しかし、海外に移住することで、別のリスクが生まれるのはないでしょうか?
まさにそのとおりです。まず、「外国人」として生活することそのものがリスクを内包しており、滞在先によっては人種差別にも直面します。特に永住権を持たない場合、滞在国での立場は非常に不安定です。コロナ禍では、永住権を持たない外国人が給付金を受け取れなかったり、ビザを更新できずに帰国を余儀なくされたりするケースが多発しました。
永住権を取ろうと思っても、そのハードルは非常に高いです。受け入れ職種や条件はその時の労働力の需給状況や世論の動向等で頻繁に変更され、近年は要件が厳格化される傾向にあります。
また、ITのように需要が高い専門職は別として、高い語学力がなければ、日本にいたときよりも生活レベルが低下するというケースも多いですね。介護職のように就労ビザを得やすい職種もありますが、全体として賃金水準は低く、生活していくのは大変です。若者に人気のワーキングホリデーも、実際に就ける仕事の大半は最低賃金の飲食業で、それすら支払われないケースが常態化しています。詳しくは、『流出する日本人』(中公新書)に書きましたが、海外移住にそうした厳しい面もあることは、もっと知られてほしいと思います。
帰国についての統計は公開されていないので正確な数はわかりませんが、さまざまな研究や調査から見て、海外に出た日本人の半分程度は、最終的に帰国しているのではないでしょうか。というのも、多くの人々がワーキングホリデーや駐在など期間限定のビザで海外に出ているからです。就労ビザをとれた人たちでも永住権がとれずに帰国する人たちは少なくないです。インフレによる物価や家賃の高騰、国際結婚の破綻、退職などで帰国する永住者たちもいます。ただ、私が帰国者に行ったインタビュー調査では、海外での生活を体験したことにより、日本の良さを再認識したという、非常にポジティブな声も多く聞かれました。色々苦労はしたとしても、海外に出たことは決してマイナスにならないということだと思います。
日本人海外移住者と地方のネットワークの可能性
――海外に移住する日本人が増えることを単に「流出」と捉えるのではなく、新たな可能性を模索するネットワーク作りも始まっているそうですね。
国連による調査では、2019年時点で81の国・地域が、海外に移住した人々やその子孫(ディアスポラ)に祖国との関係を保持・深化してもらう政策的アプローチを採用しています。具体的には、ディアスポラから国内への投資を推進する施策、税制優遇など経済インセンティブの付与、海外在住の国民の帰還促進政策等が挙げられます。日系人を対象とする特別な在留資格の付与なども、ディアスポラ政策にあたるでしょう。
海外移住というと「日本を捨てるのか」というイメージを持たれがちですが、ディアスポラの第一世代は日本への愛着を持ち続け、日本国籍を保持するケースが多いのです。これは米国のデータですが、日本と同じく複数国籍を認めていない中国やインドの帰化率が70%台後半であるのに対し、日本人は47%、調査対象となった24の移民グループの中で最も低いことがわかっています。
こうした海外移住者とのネットワークを強化することは、特に人口減少に悩む地方の活性化にも役立つのではないかと考えています。たとえば、沖縄県の「世界のウチナーネットワーク」は世界に約42万人いると推計される「沖縄県系人」との関係構築を目指したものですし、海外の県人会との交流や関係構築を深めている山口県、和歌山県、岡山県などの取り組みも、参考になるでしょう。こうした交流は、観光の拡大はもちろんのこと、地元での就職や投資など経済活動にもつながります。岡山県では起業やビジネスに特化した海外移住者とのネットワークも生まれています。
このように、世界に広がる日本人ネットワークを活かせば、「人材還流」や「資本還流」にもつながり得ると思います。