2025.1.1
日本人の海外流出が止まらない! 移住前に知っておきたい「リスク」と海外と地方をつなぐ「ネットワーク」の存在【大石奈々メルボルン大学准教授インタビュー前編】
構成/加藤裕子
一体、どんな人が海外移住しているのか?
――大石さんは、海外に永住する日本人の増加が日本における人口減少に影響していると指摘していますね。
日本の人口減少を考える時、深刻な少子高齢化に加え、海外に永住する日本人が増えていることも重要な要素のひとつと言えます。総務省『人口推計結果の概要』(2023年)によれば、2005年から2022年における日本人の海外移住による減少数は約52万1000人、外国人の流入による増加数が約112万9000人とその倍以上あるので目立ちませんが、無視できない数字です。注目しているのは、近年は円安等の要因で企業の駐在や留学目的での日本人の海外長期滞在が減少傾向にある中、海外への永住者は増え続けていることです。外務省『海外在留邦人数調査』によれば、2023年10月1日現在の日本人海外永住者数は57万4727人で、調査開始以降、最多を記録しました。
――たとえば、どのような人が海外移住をしているのでしょうか。
海外移住と一口に言っても、移住先は200を超える国や地域にまたがっており、全体像を把握するのは容易ではありません。滞在期間や移住の意図も様々で、留学、ワーキングホリデー、海外駐在、技能ビザでの就労、国際結婚、子どもの教育の機会を求めての移住、退職後の移住など多岐にわたります。移住者やコンサルタントらへの聞き取り調査などからは、節税を目的とする富裕層、より大きな市場で事業拡大を望む起業家、キャリア・アップやワーク・ライフ・バランスを求めるITエンジニア、安定したポジションや潤沢な研究費を望む研究者の移住も増加していると考えられます。
日本に住む「リスク」と海外移住の「リスク」
――なぜ海外に移住する日本人が増えているのでしょうか。
これまで私が行ってきた調査から見えてきたのは、「自己実現」や「豊かさの追求」、「生きやすさの模索」と並んで、日本に住む「リスク」の回避が海外移住の動機になっているということです。このリスク意識が顕著に顕れるようになったのは2011年以降で、東日本大震災の直後には放射能汚染やさらなる震災への懸念から、子育て世代の中間層や富裕層を中心とする海外移住が急増しました。
震災の影響が落ち着いた後も、日本の将来に対する不安や危機感を感じる人々が海外に移住しています。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻やいわゆる「台湾有事」など安全保障に関するリスク、少子高齢化による日本市場の縮小、将来的な財政破綻、年金制度の持続困難といった経済リスクを口にする海外移住者も増えています。「世界中どこでも働ける力を子どもに身に着けさせたい」と考えて海外に教育移住するケースも、広い意味でのリスク回避と言えるでしょう。