よみタイ

【猫沢エミさん×小林孝延さん『真夜中のパリから夜明けの東京へ』刊行記念対談 】喪失とその後の日々を「書く」ことで見えたもの

ミュージシャン・文筆家の猫沢エミさんと、編集者・文筆家の小林孝延さん
それぞれに大切な存在を喪った旧知のふたりが、往復書簡で明かしあった、喪失とその後の日々。よみタイの連載を書籍化した『真夜中のパリから夜明けの東京へ』が11月26日に発売されました。
本書の刊行を記念し「本屋B&B 」で開催されたおふたりのトークイベントの一部を、ダイジェストでお届けします。

(構成/よみタイ編集部 撮影/齊藤晴香)
本の刊行に合わせて一時帰国した猫沢さん。小林さんとは半年ぶりのリアル対面となりました。
本の刊行に合わせて一時帰国した猫沢さん。小林さんとは半年ぶりのリアル対面となりました。

連載については一切話さなかった

猫沢エミ(以下、猫沢) よみタイでの連載が始まって、1年間で終わったので、わりとコンパクトでしたよね。

小林孝延(以下、小林) そうですね。ちょうど1年間の連載でした。

猫沢 連載って、雑誌とかで長いものだと4~5年続けた後に書籍化するってこともあるんですけど、今回は1年間っていう短いタームで。私たちが書いていた時間と本になるまでの流れが、リアルタイムで凝縮されてるというか、ある意味オンタイムで気持ちを伝えることもできたんじゃないかと思っています。

小林 こういう「死生観」みたいなものをテーマとして扱うのには、往復書簡っていうスタイルはよかったですよね。

猫沢 そうですね。著者が二人いるっていうのが、よかったんじゃないかなと思います。あと、パリと東京では、夏は7時間、冬は8時間の時差があって。私が夜中の12時に書いているとしたら、東京は朝の7時。タイトルの『真夜中のパリから夜明けの東京へ』の通り、時空を超えたところで手紙をやりとりしているという、そういう雰囲気が出ている気がします。

小林 実際、猫沢さんも夜中に書いていたんですよね、わりと。

猫沢 最初はやっぱり夜しか書けなかったですね。時間があったとしてもみんなが寝静まった後。東京よりもパリは、みんなちゃんと夜、寝るんです。

小林 東京も寝ますよ(笑)。

猫沢 うん、東京も寝るよ(笑)。寝るけど、東京って夜中でも電気がついてたり、コンビニが24時間開いてたりっていう、そういう時間の流れがあるじゃない。それに比べるとパリは、本当にもう何もかも閉まってて、路上には酔っ払いとか、薬の売人とか、ホームレスの人たちがちらほらいるぐらいで、みんなちゃんと夜寝て朝起きるっていう生活をしてるんです。夜がとても濃い色をしてるんですよね。そういった背景もあって、夜にこれまでのことを振り返りながら、「あ、今頃小林さんは起きて、福ちゃんのお散歩を始めた頃かな」とか思いながら書くというのが、環境としてはとてもよかったなっていうふうに思います。

小林 僕も最近は夜中よりも明け方に原稿を書くことが多いのと、やっぱり過去の記憶を引っ張り出して書いていくっていう作業が多かったので、そういう静かな時間にならないと集中力が上がらなかった。

オンラインサロン「bar猫林」のライブでは、猫沢さんの暮らすパリの街角からの中継も。
オンラインサロン「bar猫林」のライブでは、猫沢さんの暮らすパリの街角からの中継も。

猫沢 今、メールで何でもオンタイムで送れてしまうじゃないですか。ややもするとメールじゃなくてLINEとか、本当にオンタイムで言葉を伝えることができてしまうんですけど、それが故に精査しないで送ってしまったものが、思わず相手を傷つけたりとか、そういうこともあると思うんですね。送った後に、「ああ、これちょっと考えてから送ればよかったな」みたいな。昔の手紙って、手で書いては直して、清書したりの時間のかかるもので、届いたものを、相手が好きな時間と場所を選んで読む。そういう時差があるからこそ、相手に対しての思いが詰まるっていうところで、とてもいいものだと思うんです。
実際には私たちはパソコンで書いてますし、原稿を編集者に送って、手紙という形でウェブに載っているわけですけど、やっぱりひとりで書いている原稿と違って、とにかく予想がつかないんですよね。例えば、ヴァカンスを取りたいから、何回分か先まで書くってことはできない。今、私が小林さんに対して考えてることを書いて、小林さんがそれを読んで返事が来るまでは、その次の原稿というのは全く書けないので、この予測のつかなさはとても面白いところでしたね。

小林 実際、僕と猫沢さんももちろんLINEでつながっているんですけど、この連載に関しては普段のやりとりでは一切触れずに、どんな内容が来るかは、送られてくるまでわからない状態で。届いた原稿を開いてから、いろいろ質問が書かれてたりするので、それに返信を考えて書くっていう、ちょっとした緊張感みたいなのはありますよね。

猫沢 連載中も2回日本に帰ってきて、小林さんと実際に会ったり、「bar猫林」というオンラインサロンを一緒にやっているので、その打ち合わせでZoomをしたりとか、わりとしょっちゅう、リアルでもオンラインでも会ってるんですけど、自然と、お互いの原稿について「この間の手紙でこんなこと書いたんだけど」みたいな話は、一切しなかった。

小林 なかったですね。

猫沢 手紙の中だけでやりとりするからこそ書けた内容かなって思いますね。

小林 実際に誰かと会って、ちょっと悲しい話を切り出したりとかってしないですよね。何かそういうきっかけがないと。

猫沢 そう、しないですよね。私の手紙の1便目にも書きましたけど、私たちがまだお互いに傷が癒えてなくて、二人ともずたぼろだった頃によく飲みに行っていたときも、すごいくだらない話ばっかりしてた。

小林 あえてそこには触れない、みたいな感じはありましたね。

猫沢 親しいからこそ、何もかもつまびらかにすればいいっていうものでもなかったり。動物みたいにリアルに同じ空間を共有してるっていうことだけで、言葉以外の何かが伝わるっていう、そういった雰囲気もありましたね。

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新刊紹介

猫沢エミ

ねこざわ・えみ
ミュージシャン、文筆家。2002年に渡仏、07年までパリに住んだのち帰国。07年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー≪BONZOUR JAPON≫の編集長を務める。超実践型フランス語教室≪にゃんフラ≫主宰。著書に『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』『イオビエ』『猫沢家の一族』など。
2022年2月に2匹の猫とともにふたたび渡仏、パリに居を構える。

Instagram:@necozawaemi

小林孝延

こばやし・たかのぶ
編集者。『天然生活』『ESSE』など女性誌の編集長を歴任後、出版社役員を経て2024年3月に独立。インスタグラムに投稿したなかなか人馴れしない保護犬福と闘病する妻そして家族との絆のストーリーが話題になり2023年10月にそれらの内容をまとめた書籍『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』(風鳴舎)を発表。連載「犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常」(福井新聞fu)。現在は元保護犬1+元野良猫4と暮らす。

Instagram:@takanobu_koba

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