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【写真家・石川直樹さん 14座登頂記念インタビュー】後編/山岳史の常識を覆す「偽ピークvs本当のピーク」問題

山と、その場所の自然や文化、人に惹かれて通う

――だから14座最後のシシャパンマに登頂されたとき「ここより高いところはない」と、ほっとしたわけなんですね。今後、この本当のピーク問題っていうのはどんどんシビアになっていくような感じですか?

シビアになっていくとは思います。だって、これだけ仔細に調査された結果がインターネットで公開されているのに知らなかった、では済まなくなりますから。

ただ、これまで登ってきた先人へのリスペクトを忘れたくありません。新しいルートや新しい登山スタイルを切り拓いてきた人たちは本当にすごかった。本当のピークに立っていなかったからその記録に価値がない、ということでは一切ない。ただ、事実として最高点に立っていなかった、と。バランスが難しい問題ですね。

マナスルで「これまでは全然頂上に立ってなかった。その先にある頂上まで危なくても行くべきだ」って言い始めて、8000m峰の偽ピークについて異議を最初に唱えたのもミンマGだった。彼は本当に時代を変えていったんです。

その彼が自分と一緒に登ったシシャパンマで、ネパール人初の14座無酸素登頂を果たした。その瞬間を目の当たりにしたい、というのも14座に向かった一つの目的でした。歴史に残る快挙なので。

自分が14座に登るモチベーションになったのは、若いシェルパの台頭と彼らが時代を作っていく、その瞬間に立ち会いたい、目撃したい、という気持ちかもしれません。そして「本当の頂上問題」というのを自分の目と体で確かめたいという気持ち、この二つからですかね。

――なるほど……。そもそも石川さんがこんなに時間をかけて、何度も足を運んでいるエリアって世界中で他にはないですよね。場所としての魅力もあるんですか?

8000m以上の山が連なっているところは、パキスタンとチベットとネパールにしかありません。
そうしたヒマラヤ山脈、カラコルム山脈の麓に広がる山岳民族の文化や歴史、人の暮らしに強く関心がありました。ヒマラヤに通うことで、ぼくの目の前にどんどん新しい世界がひらかれていったんです。ヒマラヤ山麓は、新しい発見に溢れた、非常に魅力的な地域だとぼくは思います。

――8000mの山を登りきった今、山に登りたいというモチベーションっていうのは、今後生まれるんでしょうか?

何の目的もなくどこかの山に登るっていうのも楽しいですけどね。でも、今後は大きな遠征は少なくなると思います。
あと、ヒマラヤの山に登りたいけど、どうしたらいいのかわからない、という人も結構いっぱいいるんだな、ということも前から思っていて、知人をネパールに連れていきたいな、というのは少しあります。
例えばスキーヤーやスノーボーダー、トレランの選手などは、僕より体力も技術もある。そういう人たちをヒマラヤに連れて行ったら、また別の何かが花開くんじゃないかな、と思うこともあります。最初はトレッキングでもいいですね。

――トレッキングならだいぶハードルが下がります! ちなみに8000m峰だけでなく、日本の山もたくさん登られていますが、日本で何回でも行きたい、という山はあるんですか? 

羅臼岳を最高峰とする知床連山や斜里岳とかですかね。知床半島が好きで、ずっと通ってるんですけど、夏も楽しいし、冬は流氷がくるから毎年通っています。暇があればいつでも行きたいですね。
やっぱり、季節ごとの風景や自然……結局、山だけじゃなくて、土地と、そこに住んでいる人たちや暮らしに惹かれてその場所を目指すんですよね。

 インタビューの前編はこちらから

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石川直樹

1977年東京生まれ。写真家。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、ヒマラヤから都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。ヒマラヤを撮影した写真集に『Qomolangma』『K2』『Lhotse』(いずれもSLANT刊)などがある。11月にSLANTから写真集『Nanga Parbat』、平凡社から『チョ・オユー』が発売になった。

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