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大反響!3刷!!【村井理子ロングインタビュー後編】「子育てってひたすら傷つけられるんです」。“親離れ”への戸惑いと、自分を守るための方法

親離れする息子たちに戸惑う自分が恥ずかしい

――村井さんは介護と子育てと仕事をしていて、本当にタフな日々を過ごされていますよね。

子育ては今でも悩んだりすることが多いですけど、介護はそんなに時間は取られてないと思うんです。全部アウトソースできてますから。でもたしかに義母を見てると、もし自分がすべてを忘れてしまったら、どうなるんだろうとはよく思います。認知症になったとき、私は果たして幸せなのか…。

――介護をしながら、いろいろ考えてしまう。

義母はすごく若返っちゃっていて、今はほとんどもうギャルですよ(笑)。恋をしているし、妄想もものすごく若いんです。その姿を私は微笑ましく見てますけど、自分が同じ状態になったとき、その姿を家族とか他人に見られるのはいかがなものかと不安になりますね。義母のように明るくなるならまだしも、今まで無意識に抑えていたような負の感情が吹き出してしまったらどうしようとか思ってしまう。認知症は周りもきついけれど、本人も多分相当きついと思います。

12月16日に発売される新刊エッセイ『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』(CCCメディアハウス)。
12月16日に発売される新刊エッセイ『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』(CCCメディアハウス)。

――一方で、双子の息子さんはもう高校生になり、子育ても落ち着いてきましたか?

全然っ! なんなら子育ては今がいちばん大変です。今までいろんなことを乗り越えてきましたけど、子育てが一番難しい。これを超えるものは世の中にないんじゃないかと思います。子育てってままならないし、答えがないし、最低だなって思います。

――最低、ですか(笑)。

うん。ほんと最低(笑)。何でこんなに伝わらないんだろう、何でこんなに苦しいんだろう、と思うことがすごく多いです。子育てってこんなにも苦しいのか……と思うことは、ここ1〜2年ですごく増えました。怒りともがっかりとも違うんです。子どもには、ひたすらに傷つけられるんです。

――私も高校生くらいの頃、母に対して「なんでこんなことで傷ついてるんだ」と思っていました。「親の心子知らず」とはまさにこのことですね……。

ほんとそうですね(笑)。子どものほうは親の感情を全然わかってない。ほんとなんなんでしょうね、この苦しさは。この感覚って、男親と共有できるものでもないんですよね。この前「成果だけをさらっていく人」っていう文章を書いたんですよ。こっちが地道に下地をつくって「さあこれからだ!」というときに、成果だけをかっさらっていく人たちのことなんですけど、それって子育てでもよくあって、うちの夫がそうなんです。

――どういうことですか?

母親が準備してきた期間を全無視みたいな感じで、横からいきなり来て、さっさとやっちゃえばいいじゃんって、こっちの段取りがまるでなかったかのように進めていくんです。あれはやるせなくなるし、腹が立ちますね。こっちが子どもの様子を観察しながら、少しずつ段階を踏んでいるところで、一気に駆け上がられると虚しくもなりますよ。

――村井さんは親として傷つけられたというデリケートな話も包み隠さず話しますよね。

親の戸惑いだったり、傷つけられたことは、言葉にするようにしてるかもしれないですね。最近、「毒親」という言葉を見かけるたびに辛くなるんですよ。「自分も毒になってないかな」とビクビクしている親はけっこういると思いますが、親だってプロフェッショナルじゃないんですよ。毒になる瞬間はあるかもしれない。もちろんDVやネグレクトみたいな虐待という意味での「毒」はあって、それは大問題ですよ。でも、それとは違うアマチュアな親のちょっとした過ちまで「毒」と言われるのは、あまりにも過酷すぎるよ、と思うんです。

――親に対して「毒になるな」と抑圧しすぎるのも不健康かもしれないですね。

そうなんですよ。「毒」という言葉が、今すごい重くのしかかるんです。毒になっちゃいけないと思うんだけど、「いやでも、しかし……」と思う。ここは干渉してあげたほうがこの子たちのためじゃないか、と悩む。見守りと干渉のバランスの取り方がまったくわからないです。私だって子育ては初めてのことだし、何もわからない。でも、自分がギリギリのところに来ているのも、すごくよくわかる。

――そこまで自覚できてても難しいですか。

自分のゲージがレッドゾーンに近づいてるのがわかるんですよ。自分の中でアラームが鳴りまくってる。「息子たちにこれ以上干渉するとヤバいぞ」ってピーピー鳴ってる。「愛は免罪符にならない」じゃないけど、子どもに対する愛情を前面に押し出して、いくらでもぐいぐい行きそうになるんですよ。「あなたのことを愛しているから、あなたもそれに応えなさい」と迫りそうになる自分がいる。今は、自分がどんどんレッドゾーンに突き進むのがわかるから、無理やり戻しています。ボルテージが上がってゲージが振り切れそうになるときがあるんですよ。

――それはどういうときですか。

息子を見ていると、しょっちゅう腹が立ったり悲しくなったりするんです。自分の子どもに対してここまで腹が立つのかって、自分でも怖くなるときがあります。もうそういうときはハリーと散歩に行って気分を紛らわすしかないですよ。

――高校生くらいって手がかからなくなってラクになるのかと思っていましたが、全然違うんですね。

今、息子たちの親離れが始まっていて、子どもって本当に離れていくんだなって日々驚くんですよ。頭ではわかってるんだけど、小さい頃から守り育ててきたことに対する裏切りのように感じてしまう。自分のその感情が間違ってることはわかるのに、すごく戸惑ってしまう自分が恥ずかしいんです。

――村井さんは「恥ずかしい」と言えるのが強いなと思います。自分の感情が間違っているとフタをするのではなくて、少しずつでも吐き出すことで、自分を保っているというか。

そんな器用なことをしているつもりではないですよ(苦笑)。こんなに理性を失って、ぎゃあぎゃあ言っている自分のことは、ほんとに恥ずかしいです。私、じわじわヤバくなってるのは自覚してて……。だから、絶対に仕事はやめちゃダメだなと思っているんですよ。自分の仕事に集中して、自分の世界をちゃんと持って、親離れに耐えられるようにしないとなって。

――ままならない感情を村井さんが言葉にしてくれることで、自分だけじゃないんだと思える親は少なくないと思います。

もうね、心臓の手術をして、兄を見送って、95%の問題は大したことないと思える胆力がついたんですよ。もともと落ち込みが長続きするタイプでもないんだけど、余計にその傾向が強くなりました。何せ命が助かったんだから、ちょっとやそっとじゃ落ち込まない。でもいまだに子どものことは悩みまくります。ミッション系の学校に行ったので、最近神様に祈っちゃいますもんね、ほんとに。そんなこと今まででしたことないですよ。とにかく子育てはままならないんですよ。私、今年52歳ですけど、この年齢でティーンエージャーと向かい合う正解がまったくわからないですもん。

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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。
新刊エッセイ『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』(CCCメディアハウス)が、12月16日に発売!


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