2023.4.2
幼少期にポケモンを買ってもらえなかった早稲田卒アラフォー会社員の、タワマンに住んでも癒されない虚しさとは?【窓際三等兵 新刊試し読み】
息子のためでなく、自分の傷を癒すための儀式
大人になった今だから分かる。健全な物に囲まれ、誘惑に負けることなく健やかに育って欲しいという母の想いは、世間では愛と呼ばれるものだ。僕が社学とはいえ早稲田を出て、それなりの企業に勤めているのは母の愛のおかげだ。でも、幼少期に満たされなかった想いは、渇きは、今もまだ確かに残っている。
「うわ、バイオレットだ! やったー! パパ、ありがとう!」。朝、リビングでAmazonの箱を開けて大はしゃぎの息子。「誕生日でもクリスマスでもないのに。まだサピックスの宿題も終わってないのよ」としかめっ面の妻。これは息子のためでなく、僕の傷を癒すための儀式なんだと言っても理解してもらえないだろう。
「そういやα1のケンタ君、家にSwitchないんだよ。ママが厳しいんだって。可哀想だよね」。息子の何気ない一言に、鼓動が速まる。子供の世界の共通言語を持たず、母親の監視の下で偏差値を上げるためデイリーサピックスを黙々と解く小学生男子。顔も知らないケンタ君の日常を想像するだけで、胸が締め付けられる。
深夜、家族が寝静まったタワマン低層階のリビングで一人、Switchの電源を入れる。ニャオハがマスカーニャまで進化しても、チャンピオンロードでオモダカを倒しても、驚きや喜びを共有できる友人はどこにもいない。プレミアムモルツを一口飲む。僕が本当に欲しかったものは、もう二度と手に入らない。
発売前から大反響! Twitter文学初の豪華アンソロジー
5分後に、虚しい人生。
空虚なスキマ時間に読み切れる、22の傑作ショートショート。
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