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スピリチュアルと江戸文芸……ぶっとんだ世界を読む/書くということ【酉島伝法+児玉雨子 対談】

現代の流行語は、江戸時代がルーツだった!?

酉島伝法さん(撮影/福森クニヒロ)
酉島伝法さん(撮影/福森クニヒロ)

酉島 それだけ強引でも当時の人たちがすらすら読めていたのは、いろんな遊びを含んだ言葉のリズムがいいからでもあるんでしょうね。『江戸POP道中文字栗毛』の『金々先生栄花夢』を取り上げた章では、当時の流行語に言及されています。江戸時代にも現代に通じる流行り言葉があったのだと知って、一気に親近感が沸きました。

児玉 そもそもタイトルの「金々」というワードが、現代でいう「イマドキでイケてる」といったニュアンスを持つ流行語なんですよ。作中では、都会的で洗練された身のこなしや遊び方が「金々」と表現され、冴えない田舎者の主人公からみた憧れが描かれています。
 そのなかで「〜山」と、接尾語に「山」をつける流行語が出てくる。これは動詞の後ろにつけて、その動詞のニュアンスや勢いを足す表現なんです。いまで言うと「~し散らかす」「~しまくり」に近い感じですかね。「草生えた」とか「www」といった表現も、勢いを助長するという意味では同じかもしれません。

酉島 そうか、草と山が(笑)。他にも、「茶漬けを食べる」を「茶漬る(ちゃづる)」と言うのがすごく好きで、どこかで使ってみたいんですよね。いまでいう「茶をしばく」みたいな感じで使われていたのかなぁと。

児玉 なるほど、その発想はなかったです(笑)。もともと「茶漬る」とは、食べ物の名詞に「〜する」を付け加えて、それを食する行為を表しているようです。少し前に流行った「タピる」に近いですね。
 他にも、名詞に「〜する」を付け加えた流行り言葉は多々あったそうで、いまの「ディスる」とか「事故る」もその名残かと思います。流行語を通して江戸時代と現代がつながるのは面白いですよね。

酉島 ああ、タピる! それですね。「ありがありが」「おそろおそろ」と言った言葉も口にしたくなる妙な楽しさがあって。二重表現で意味を強調するのは江戸時代も同じだったんだなと。流行語に絞っていろんな時代を俯瞰するのも面白そうです。

児玉 もともと流行語って、当時からノリや語感を良くするために作られたのが始まりだったようです。作詞するときも痛感しますが、日本語は母音が多い言語なので、英語のようにリズミカルじゃない。あえて言葉を長くしてまで、語感を整えているのかなと。

酉島 なるほど。リズムじたいに捧げられる、意味を持たされる前の音みたいでいいですよね。流行語って、特に深い意味があったり、なにかを隠喩した表現というわけでもないんですね。そして、そういう自然発生的な言葉を創作で違和感なくでっちあげるのはとても難しい。

児玉 そうなんです! 私も近世文芸を読むたびに「なにこの表現!?」と思って、そのつど意味を調べてたんですが、結局はノリなんです(笑)。そうした意味を求めない軽々しさが、純粋に語感や連想を楽しめる魅力でもあるんですよ。
 文筆業をしていると、職業柄か、単語ひとつとっても、つい意味やストーリー性を求めがちじゃないですか。とりあえず即席でもいいから理由が欲しくなってしまう。でも流行語にはそうした理屈は要らないんです。
 それに意味や理由を求めてしまう習性って、さっきも話したスピリチュアルや迷信に走る人と同じですよね(笑)。

酉島 話が戻ってきましたね(笑)。そうなんですよ、現実とは異なる世界を小説で書いていると、裏側の辻褄を執拗に考え続けないといけないことが多くて、それって似たようなものなんじゃないか、と思うことがあります。編集者さんに、でっちあげた設定について疑問を呈され、でっちあげた設定で説明していたりすると、子供の頃についついてしまった嘘を突っ込まれて延々と嘘を重ねていくような感覚に陥ることがあって、自分は大丈夫なのか、と不安になったりする。

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児玉雨子

こだま・あめこ
作詞家、小説家。1993年生まれ。神奈川県出身。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。アイドル、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に幅広く作詞提供。2021年『誰にも奪われたくない/凸撃』で小説家デビュー。2023年『##NAME##』が第169回芥川賞候補作となる。

Twitter @kodamameko

(写真:玉井美世子)

酉島伝法

1970年大阪府生まれ。小説家、イラストレーター。2011年、「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞を受賞。2013年刊行の連作集『皆勤の徒』は『SFが読みたい! 2014年版』の国内篇で第1位となり、第34回日本SF大賞を受賞。2019年、初長篇『宿借りの星』も第40回日本SF大賞を受賞した。他の著作に『るん(笑)』、共作に『旅書簡集 ゆきあってしあさって』がある。

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