2022.11.22
『今朝もあの子の夢を見た』単行本発売記念! 野原広子さんインタビュー「“正解”を描いちゃいけない本だと思った」
不登校だった娘から「漫画でも描いてみたら」
――ここであらためて、「漫画家・野原広子」が誕生したきっかけを教えていただけますか。
もともと絵を描くのが好きでイラストレーターの仕事をしていたのですが、母が亡くなり、続けて東日本大震災が起き、故郷・宮城の惨状を目の当たりにしてかなり精神的に参ってしまって。何もできない状態が1年くらい続いた時期があったんです。仕事も激減して、意欲を失いかけていた私を見かねたのか、当時中学生だった娘が「漫画でも描いてみたら」と言ってきたんです。
「漫画なんて、よほど人を惹きつけるネタがないと描けないよ」と返したら、「じゃあ、私の登校拒否について描いていいよ」と言い出して。しかも、「こんなふうに描いてよ」と持ってきた漫画が井上きみどりさんの『子供なんか大キライ!』。出産したばかりの頃、集英社の編集者から「育児漫画を描くなら、このくらいのものを描いてくださいね」と渡されたまま本棚に差していた本を娘が差し出す、という不思議なつながりに心底驚きました。
当時、不登校に悩んで自殺する子どもたちのニュースが気になっていたこともあって、「つらくなったら、学校に行かなくてもいいんだよ」と伝えられる漫画なら描いてみたいなと一歩を踏み出しました。これがデビュー作の『娘が学校に行きません』となりました。
――デビュー作の出版は2013年ですので、約10年前ですね。
やるからには本にしようという気持ちではありましたが、40歳を超えてのデビューでしたし、まさか2冊目、3冊目と続くとは思ってもいませんでした。
私は特別な才能はなく、若い方々のように熱い野心があるわけでもなく、これまでの人生経験の中で「仕事がいつまでもあるとは限らない」ということも知っています。どちらかというと「生活のために仕事をしなくちゃ」という現実的なモチベーションのほうが強いかもしれませんね(笑)。だから、求められるものを描いていきたいですし、「描かせていただいてありがとうございます」という感謝の気持ちが常にあります。
――年齢を重ねてデビューをしたからこその強みもあるのではないでしょうか。
それしかないと言ってもいいかもしれないです。才能も根性もないけれど、経験だけは自信があります。
これまで重ねてきた日常の中で、心に残ったシーンが意外とたくさん蓄積していて、作品の細かな描写に自然と活かされているような気がします。
――今はどんなテーマに関心がありますか。これから描いてみたいテーマがあれば教えてください。
50代を迎えて、同年代や年上の大人の日常を描いてみたいですね。
漫画って若い方が読むのかと思っていたら、意外と60代、70代の読者の方からもお手紙をいただくことがあるんです。いわゆるシニアと呼ばれる世代に向けて描かれたコミックエッセイはあまりないですし、私自身も無理せずに興味を持ちながら描けそうだなと。
いただけるチャンスを大切に、私自身の「知りたい」「分かりたい」の気持ちを満たせる作品づくりをしていきたいなと思います。
11月25日単行本発売!
『妻が口をきいてくれません』(第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞作)の野原広子が、離婚後の家族に切り込む。大反響のウェブ連載を経て、待望の書籍化。
妻が書き置きのみを残し、娘を連れて家を出た――。
山本タカシ、スーパー勤務、ひとり暮らしの42歳。離婚して10年、当時7歳だった子どもに一度も会えず、元妻とどこに住んでいるかも連絡先もわからない……この家族にいったいなにがあったのか。
前作は「手塚治虫文化賞」短編賞を受賞!
妻はなんで怒っているのだろう……。
妻、娘、息子の4人家族として、ごく平和に暮らしていると思っていた夫。
しかし、ある時から妻との会話がなくなる。3日、2週間と時は過ぎ……。家事、育児は普通にこなしているし、大喧嘩した覚えもない。違うのは、必要最低限の言葉以外、妻から話しかけてこないことだけ……。
大反響のロングセラー、手塚治虫文化賞受賞作『妻が口をきいてくれません』はAmazonや全国書店で好評発売中。