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『今朝もあの子の夢を見た』単行本発売記念! 野原広子さんインタビュー「“正解”を描いちゃいけない本だと思った」

しんどいテーマを、しんどく描かない

――今回に限らず、野原さんは「ママ友」の一筋縄ではいかない関係など、決してポジティブとは言えない人間関係を入り口に作品を展開する作風で支持を集め、2021年には『消えたママ友』『妻が口をきいてくれません』で第25回手塚治虫文化賞短編賞を受賞されました。難しい人間関係を描き続けるモチベーションは、何によって生まれるのでしょうか。

ママ友に関しては、編集さんの提案から挑戦したのが最初のきっかけでした。正直、はじめはツラかったのですが、降ってくるお題に対して一生懸命返していくうちに、読者の方から反響が来るようになって。「私が叫びたくても叫べないことを、野原さんが言ってくれる」という声を聞くにつれ、「それを求められているのなら頑張ろう」という気持ちが湧いてきて、なんとか踏ん張っているうちに、今に至るという感じです。
以前、歌番組を観ていたら歌手の森進一さんが「本当はもっと明るい歌を歌いたいと思っていた」という話をされていたんです。「でも、暗いド演歌を歌ったほうが喜ばれるなら、僕は喜んで暗い世界を歌い続けます」という言葉に感動して。これほどの歌手がお客さんのためにと頑張るのなら、私も求められる世界を描き続けようと心が決まりました(笑)。
前作の『妻が口を聞いてくれません』はギャグっぽく描いたつもりでしたが、思いのほか、読者の方々はヒートアップして激論が展開されていたりして。作品を出してみた後に、世間の関心の高さに気付かされることもありますね。

――描き方としていつも心がけてきたことはありますか?

「しんどいテーマを、しんどく描かない」というのがモットーです。できるだけ単純な線で、絵もあまり描き込まずに、おやつを食べながらペラッと読めるような本にしたいなと思っています。
よく特徴的だと言われるのは「目」なのですが、どんなシーンでも「点」で描きます。時には点すら描かないことも。感情の解釈は、読者の方に委ねたいからです。

10年ぶりに娘と対面する重要なシーンでも目は「点」。『今朝もあの子の夢を見た』より。©︎野原広子/集英社
10年ぶりに娘と対面する重要なシーンでも目は「点」。『今朝もあの子の夢を見た』より。©︎野原広子/集英社

――影響を受けた作品はありますか?

私のペンネームの由来でもあるのですが、『クレヨンしんちゃん』(臼井儀人)です。子どもを産んで数年間、テレビを観ることができなくなって、やっと漫画を読めるかなと思ったときに、絵と文字の密度の濃い漫画は開くだけで苦しくなってしまって。唯一読めたのが『クレヨンしんちゃん』。単純な絵と緩やかなコマ割りで、心身がつらいときでもスーッと入ってくる。私の作風の原型になっていると思います。

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野原広子

のはら・ひろこ●イラストレーター。作品に『離婚してもいいですか?』『離婚してもいいですか? 翔子の場合』『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』『ママ、今日からパートに出ます! 15年ぶりの再就職コミックエッセイ』『消えたママ友』『赤い隣人』(以上すべてKADOKAWA)『お仕事はじめました!』(主婦と生活社)『人生最大の失敗』(オーバーラップ)『今朝もあの子の夢を見た』などがある。
2021年『妻が口をきいてくれません』『消えたママ友』2作により、第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞。

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