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「死にたい」のサインに気づいたら……精神科医が解説する、身近な人のメンタル不調への対処法

絶対にやってはいけないこと

「死にたい」という患者さんに、絶対にやってはいけないことがあります。それは、「気分転換しよう」と促すこと。
「旅行に行って気分を変えよう」
「音楽を聞いてみたらいいんじゃない」
「久しぶりに、実家の親に会いに行ってみる?」
などと、絶対に誘わないでください。
 理由は、患者さんの死にたいほどつらい気持ちに、寄り添っていない一言だから。つらさを真剣に受け取ってもらえないという孤独感に襲われます。
 悪気があって言っているのではないと、わかってはいるのです。日々、迷惑をかけているにもかかわらず、家族は自分を思って言ってくれている。だからこそ、患者さんは頑張ってしまいます。すでに枯渇しているエネルギーを最後の一滴まで振り絞って、その提案に乗ろうとします。
 その結果どうなるかについては考え方がさまざまありますが、せっかく家族が気分転換に誘ってくれたのに、ちっとも楽しめない自分自身に罪悪感を覚える人も多いようです。楽しまなきゃいけないのに楽しめないというプレッシャーが、しんどさに輪をかけてしまうのです。
 死にたい気持ちには、正面から向き合ってください。目をそらしたくなる気持ちはわかりますが、死なせないためには直視するしかないのです。「まぁ、別の楽しくなるようなことでも考えようよ」などと話をそらすようなことだけは、絶対に言ったりやったりしてはいけません。

 言葉が出てこないし、何をしてあげたらいいかもわからないなら、そばにいるだけで十分です。無理して声をかける必要もありません。ただそばにいて、話したいときは話を聞くよ、という気持ちが伝わればいいのです。つらいことをいくらでも吐き出せて、絶対にいつでも味方になってくれる相手がいることが、一番患者さんの安心材料になるのです。
 もしかしたら、ただそばにいるだけしかできないことに、無力感を覚えるかもしれませんが、耐えてください。「死にたい」という人にとって、周りの何かしてあげたいという気持ちが、却って負担になる可能性が高いことを知っておきましょう。

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井上智介

いのうえ・ともすけ
産業医・精神科医。
兵庫県出身。島根大学医学部を卒業後、大阪を中心に産業医・精神科医として活動する。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としてはうつ病、適応障害などの疾患の治療にあたっている。
「おおざっぱに(rough)笑って(laugh)生きてほしい」という思いから「ラフドクター」を名乗り、ブログやSNS、講演会などで情報発信している。『1万人超を救ったメンタル産業医の職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』『「あの人がいるだけで会社がしんどい……」がラクになる 職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』など著書多数。『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』でメンタル本大賞2022最優秀賞を受賞。

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