2023.8.30
「死にたい」のサインに気づいたら……精神科医が解説する、身近な人のメンタル不調への対処法
絶対にやってはいけないこと
「死にたい」という患者さんに、絶対にやってはいけないことがあります。それは、「気分転換しよう」と促すこと。
「旅行に行って気分を変えよう」
「音楽を聞いてみたらいいんじゃない」
「久しぶりに、実家の親に会いに行ってみる?」
などと、絶対に誘わないでください。
理由は、患者さんの死にたいほどつらい気持ちに、寄り添っていない一言だから。つらさを真剣に受け取ってもらえないという孤独感に襲われます。
悪気があって言っているのではないと、わかってはいるのです。日々、迷惑をかけているにもかかわらず、家族は自分を思って言ってくれている。だからこそ、患者さんは頑張ってしまいます。すでに枯渇しているエネルギーを最後の一滴まで振り絞って、その提案に乗ろうとします。
その結果どうなるかについては考え方がさまざまありますが、せっかく家族が気分転換に誘ってくれたのに、ちっとも楽しめない自分自身に罪悪感を覚える人も多いようです。楽しまなきゃいけないのに楽しめないというプレッシャーが、しんどさに輪をかけてしまうのです。
死にたい気持ちには、正面から向き合ってください。目をそらしたくなる気持ちはわかりますが、死なせないためには直視するしかないのです。「まぁ、別の楽しくなるようなことでも考えようよ」などと話をそらすようなことだけは、絶対に言ったりやったりしてはいけません。
言葉が出てこないし、何をしてあげたらいいかもわからないなら、そばにいるだけで十分です。無理して声をかける必要もありません。ただそばにいて、話したいときは話を聞くよ、という気持ちが伝わればいいのです。つらいことをいくらでも吐き出せて、絶対にいつでも味方になってくれる相手がいることが、一番患者さんの安心材料になるのです。
もしかしたら、ただそばにいるだけしかできないことに、無力感を覚えるかもしれませんが、耐えてください。「死にたい」という人にとって、周りの何かしてあげたいという気持ちが、却って負担になる可能性が高いことを知っておきましょう。
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