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西の牛肉、東の豚肉、イカ派かタコ派か…稲田俊輔と今井真実が、東西の食のアイデンティティを探る

西の牛肉、東の豚肉

稲田 西と東と言えば、やっぱり牛肉・豚肉問題というのがありまして。関西は牛肉、関東は豚肉がメイン。これはもう皆さんよくご存じなので、特に本には書かなかったんですけれども、やっぱりレシピ本を作ってるとそこも問題になってきて。自分の場合は、なるべく食材とか満遍ないほうがいいから、鶏も豚も牛も大体均等に、例えば3レシピずつみたいなことを意識するんだけど、東京目線だと、普段牛肉は使わないですよねってツッコミが。

今井 言われます。

稲田 で、今回の今井さんのレシピ本を見たときにまずひと笑いしたのが、トップバッターで掲載されているハンバーグのレシピなんです。さらっと「合い挽き肉300グラム、牛挽き肉200グラム」って書いてある。今、スーパーにある合い挽き肉って、どうでしょう、牛豚の半々が多いのかな。

今井 そうですね。

稲田 牛50、豚50っていう合い挽き肉が普通のスーパーには置かれてる。「そんなものは合い挽きじゃない」っていう。合い挽きっていうのはあくまで牛がメインで、そこにちょっと豚を加えたものが合い挽きだっていう強い思想がありません? 我々には。

今井 はい、あります。

稲田 ありますよね。で、それをだだ漏れにしてるのが、この冒頭の材料のところ。

今井 牛の香りがせえへんハンバーグなんて意味ある?みたいなちょっと強い思想が漏れてしまった(笑)。

稲田 さらっとすごいことが書かれてる。いまどきの家庭用レシピ本で挽き肉を2種類用意するように指定するのはなかなか腹が据わってないとできないし、おそらくですけど編集者は嫌がったんじゃないかなと思ったりも。

今井 料理雑誌ではボツになりました。

稲田 やっぱり。大ごとなんですよ、これがあるかないかというのは。
ただ、東北旅行のときにローカルスーパーを何軒か回りまして、そこで精肉コーナーを見て回りました。正直、レシピ本に「牛肉」って書いて、「東北の皆さん、すみませんでした」って。本当に牛肉を売ってない。

今井 本当にないです。私オージービーフPR大使っていうのをやっているんですけど、やっぱりそれは感じますね。

稲田 「稲田さんのレシピにはちょこちょこ牛肉が出てくるけど、あれ全部豚肉にしていいですか」みたいなことをよく言われるんですけど、僕自身は実はどうぞお好きにっていうスタンスなんです。でも、そこまで牛肉がないのか?とは思ってたんですけど。東京より、もっと北に行くと実感する。

今井 ただ面白いことに、北海道へ行くと、今度牛肉がちょっと増えてきて。

稲田 増えるんですか。

今井 なおかつ、ラムがすごいんですよ。ラムがいろんな部位売ってるんです。だからお肉のローカルっていうのも面白いなって思いますね。名古屋はどうですか。

稲田 名古屋もまたちょっと変わってますけど、牛肉の扱いに関しては、関西と関東の中間的な感じかな。

今井さんのハンバーグのレシピは、お肉の味しっかり&別焼きの飴色玉ねぎがポイント。
今井さんのハンバーグのレシピは、お肉の味しっかり&別焼きの飴色玉ねぎがポイント。

イカ派? タコ派? 弁当に入れる魚は?

稲田 料理家の方も、何だかんだ言って東京文化圏の方が中心なんですかね、全体で見ると。

今井 そうですね。撮影とかがどうしても東京であるので、東京にお住まいの方が多いとは思うんですけど、出身はやっぱり西の人、多い。

稲田 僕も実感としてはありますね。だから本音トークじゃないけども、自分が好きなものはみたいな話になると、その方の普段の方向性と少し違うところが見えてきたりとか。

今井 本のうどんの章にも書いてましたよね。最近のおうどんは柔らかくならないって、関西出身の料理家の方がおっしゃったって。

稲田 そう、あれも関西を知ってる人間としてはすごい頷ける。「ですよね」みたいな。
レシピ本を見て、料理家さんのルーツとか、なんなら編集者との葛藤とか、どういう人たちに作ってほしいのかみたいなことが読めてくるとまた一つ、面白かったりしますよという。レシピ本の裏読みみたいな話で。

今井 レシピ本に透けるものが面白いんですよ。私、以前「イカvsタコ」っていうのを雑誌の企画でやって、私はタコ。

稲田 そりゃそうなりますね。兵庫県出身ならそうならざるを得ないです。

今井 やっぱりイカとタコどちらを多用するかっていうので全然違いますよね。この人、西の人だなとか、結構透けて見えると思います。

稲田 あと西の人は、弁松もそうだし崎陽軒のシウマイ弁当もそうだけど、弁当にマグロ系の焼き魚を入れるなんてどういうこと?って思いませんか。

今井 まずマグロの漬け焼き、食べない。

稲田 僕、もしかしたら崎陽軒のシウマイ弁当が初めて食べたマグロ系、あれはカジキマグロかな、マグロ系の漬け焼きかもしれない。

今井 東京ではマグロ系の漬け焼きはポピュラーですね。羽床はゆか総本店っていう神奈川のお店があるんですよ。マグロ漬けの贈答品がいっぱい。でも西やったら絶対違う魚ですよ。

稲田 マナガツオとかを最高ランクにして、一番パサついてもサワラまでっていう。

今井 そうですね。パサつかないですね、西のお弁当の魚は。

稲田 ただ、東京でデパ地下のお弁当を見ると、確かに弁松さんとかそういう昔ながらのお店のは相変わらずマグロ系が入っているけど、ちょっと今どきのお店になると違っていて。

今井 メロですか。

稲田 そう。メロを頂点に、安くしてサバに落ち着くっていう。これが関西の流れですもんね。そういうところでも静かに食の関西化が進んでるんで、逆に言うと我々はマグロの漬け焼きが入ってるようなお弁当のことはちゃんと「お大事になすってください」と。このときは僕も我々って言いますけど、我々、東京の味を愛する人間はマグロの漬け焼きが入ったお弁当を大事にしていこうではありませんかと。

今井 弾力、噛んでも噛んでも脂が出ない感じとかが、逆に言うと生臭くないんですよね。脂が酸化しないというか。あれはあれで、おいしさを理解できれば尊いですね。

【後編終わり】

イベントでは、今井真実さんの初めての弁松体験、人類は「酒を飲む人類、酒を飲まない人類、吉田類」の3つに分かれる説、単行本に収録しそびれた幻のエピソード「牧のうどん」攻略法などなどが盛りだくさん。
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博覧強記の料理人・イナダシュンスケが、うどん・蕎麦・餃子・から揚げ・ラーメン・すき焼き・お好み焼きなどの王道人気メニューから、日本の味の「東西差」を考えるエッセイ。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。最新刊は『東西の味』。

今井真実

料理家/エッセイスト/絵本作家。
兵庫県神戸市出身、東京都在住。レシピやエッセイ、SNSでの発信が幅広い層の支持を集め、TV、雑誌、web、企業広告など多様な媒体でレシピ制作・執筆を行う。
身近な食材を使いながら、素材の香りや食感を重ねる料理が特徴で、「知っているのに知らない味」「料理が楽しくなり、何度も作りたくなる」と高い評価を得ている。
また日常を綴ったエッセイも人気を博している。
2023年、日本代表としてオージービーフPRアンバサダーに選出され、国内外に向けたレシピ開発・ブランド発信を担当。海外のシェフや生産者とのコラボレーションイベントにも招致され、海外での活動も行っている。
著書に『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』『料理と毎日 12か月のキッチンメモ』『フライパンファンタジア』、絵本『はじめて・りょうり ごはん』『はじめて・りょうり トマト』ほか。山田詠美との共著『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』では、山田詠美文学に登場する料理の数々を再現。大人気中華飲食グループ「味坊集団」『味坊の味』レシピ化を監修。

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