よみタイ

西の牛肉、東の豚肉、イカ派かタコ派か…稲田俊輔と今井真実が、東西の食のアイデンティティを探る

好評発売中の稲田俊輔さんによる新刊『東西の味』
刊行を記念して行われたトークイベントの一部をご紹介します。
対談のお相手は人気料理家の今井真実さん。お仕事でご一緒される機会もおありのお二人の、息ぴったりの掛け合いをお楽しみください。
後編では、東京スタンダードが揺るがないレシピ・料理本の独特の世界についてや、お弁当に入れる魚の種類の東西差というニッチすぎる話題もお届けします。

(構成/よみタイ編集部 撮影/齊藤晴香)
90分のイベントはあっという間に後半へ。東京基準で作られる料理本やレシピの世界が話題に。
90分のイベントはあっという間に後半へ。東京基準で作られる料理本やレシピの世界が話題に。

レシピの世界は東京中心

稲田俊輔(以下、稲田) ざっくり西と東という話をしているなかで、大事なことがあります。東京の人と大阪の人、みんな、それぞれ自分たちが日本の中心だと思ってます。

今井(以下、今井) それは間違いないですね。

稲田 東京の人、胸に手を当てて考えてみてください。東京にしかないさまざまなローカルの食べ物を、当たり前に日本全国にあるものだと思ってるでしょ、あなたたち。急に説教モードに入るんですけども。
お互い中心だと思ってるから、よくいろんな論争が起こって、「うどんの汁、真っ黒やんけ」みたいな。ああいうのに代表されるような面白おかしい論争があるわけですが、大阪の人たちが、少なくとも食に関しては自分たちが中心だと思ってるのは、そりゃまあそうなるよねと思います。

今井 天下の台所とか言ってますし。

稲田 現実に、どんどん世の中の食が関西化していると。でも関東が中心だと言える要因もあると思っていて、例えばインバウンド。これに関しては、実は関東の味が圧勝してるのわかります? 寿司、天ぷら、ラーメン。海外の人たち、懐石食べに行かないですからね。だったら寿司を食べるでしょう。世界規模で見ると、実は東が全力で巻き返してるところなんです。
あと、なんと言っても今日お話ししたいのは、料理本とか料理番組、レシピの世界。これは圧倒的に東京が中心なんです。考えたら当たり前ですね。出版社、ほとんど東京にあります。キー局、東京にあります。番組のほうも基本的には東京で作られます。
昔の料理本を見てみると、すごく関東料理的な世界なんです。西の民からすると、なんで肉じゃがの煮汁を飛ばさなきゃいけないのかわからない。でもそれが当たり前みたいな世界。食品メーカーも基本的には関東が中心なので、そういう意味で実は関東、特に東京の人たちの味がメディアを通じて全国に広まっている。だから東京が中心だと思うのも、これはこれで納得がいくところだなと。

今井 そうですね、細かい話で言うと、東京の味に照準を合わせたほうが、企画も通りやすいですよね。稲田さんのこの本にも書いてありますけど、薄口醤油問題。やっぱり関西は、薄口醤油的な味が多いんですが、おうどんを作るときでも「薄口じゃないとだめですか」って。

稲田 僕も編集さんから「薄口がなければ濃口でも可って書いてもいいですか」ってよく聞かれて。

今井 駄目です(笑)。

稲田 駄目ですって。この後も延々、ずっと薄口醤油出てきますから、ここでもう買っていただきましょう、って思うんですが。

今井 もう買っといてください。そうですよ。

稲田 現役ばりばりの料理家である今井さんでも、そういうレシピの現場での感覚の違いみたいなものは感じますか。

今井 そうですね、新刊(『毎日のあたらしい料理2』KADOKAWA刊)でたこ焼きのレシピを入れたいって言ったんです。私、たこ焼き器を全員持ってると思ってるから。そうしたら編集さんに「たこ焼き器をみんな持っているとは限りません」って言われて。でもそれって東京しか見てないやんって。「いったん関西見よう」って言ったら、「コラムページだったらいいです」とお許しが。

稲田 なるほど。せめぎ合いですね。だから色物枠ってことですよね。

今井 そうです。で、コラムページに入れてもらいました。あと、実は私、東京に来て惚れ込んだ食材があって。ホヤなんです。

稲田 ああ、わかります。僕もそう。あんなの、大人になるまで食べたことなかったから。

今井 スーパーで意外と売ってるんですよ。だからホヤ、「何これ?」っていう人にこそ作ってもらいたい、ホヤのレシピを入れよう!って提案したら、「いや~ホヤはちょっと食べたことないです」。今度は「いったん東、見よう」って言って。ホヤ、好きな人はめっちゃ好きやからって、晴れて収録してもらったという。

稲田 ああ、入ってましたね。

今井 自分の本だから、東を見て、西を見て、北を見てってやって、やっぱりちょっとずつそういうレシピを作っていきたいなっていうのはありますね。

稲田 わかります。僕も『ミニマル料理 和』っていう、和食特化のレシピ本を作ったときは、基本的には関西の味を全国に紹介するっていうのが基調にあったんですね。でもそれだけじゃ薄っぺらくなっちゃうから、九州の味も入れたり、自分が東京に来てから知った濃いどんぶり物、親子丼のレシピはもうがっつり濃い関東風で入れたりとか。

今井 私もあの本で痺れたのが三杯酢ですよ。

稲田 三杯酢、ありがとうございます。昔は三杯酢、ボトルで売ってたけど。

今井 今もこんなちっちゃいやつがスーパーの片隅に。

稲田 片隅に追いやられましたよね。ポン酢(ポン酢醤油)の野郎が持っていった(笑)。

関東、関西の味の世界観を的確に言語化する稲田さん。
関東、関西の味の世界観を的確に言語化する稲田さん。
1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。最新刊は『東西の味』。

今井真実

料理家/エッセイスト/絵本作家。
兵庫県神戸市出身、東京都在住。レシピやエッセイ、SNSでの発信が幅広い層の支持を集め、TV、雑誌、web、企業広告など多様な媒体でレシピ制作・執筆を行う。
身近な食材を使いながら、素材の香りや食感を重ねる料理が特徴で、「知っているのに知らない味」「料理が楽しくなり、何度も作りたくなる」と高い評価を得ている。
また日常を綴ったエッセイも人気を博している。
2023年、日本代表としてオージービーフPRアンバサダーに選出され、国内外に向けたレシピ開発・ブランド発信を担当。海外のシェフや生産者とのコラボレーションイベントにも招致され、海外での活動も行っている。
著書に『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』『料理と毎日 12か月のキッチンメモ』『フライパンファンタジア』、絵本『はじめて・りょうり ごはん』『はじめて・りょうり トマト』ほか。山田詠美との共著『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』では、山田詠美文学に登場する料理の数々を再現。大人気中華飲食グループ「味坊集団」『味坊の味』レシピ化を監修。

週間ランキング 今読まれているホットな記事