2026.3.27
たとえるなら「関東の味はハードロック、関西の味はR&B!?」稲田俊輔と今井真実が語り合う、東西の味の違いあれこれ。
食の三都物語
稲田 そこから名古屋へ移り住みました。これも実はそんなに違和感なかったんです。僕、一応名古屋市民として声を大にして言いたいのは、皆さん、名古屋には変な食べ物ばっかりあると思ってるでしょ。大体、世の中の人、そう思ってる。で、また名古屋の人もそれを自虐ネタに使うからね。「名古屋の食べ物は全部茶色い、名古屋は味噌だぎゃ」とか、そういうネタとしてやってるからますますそうなる。ここで一つ言いたいのは、名古屋とかあの辺り、一応、愛三岐(あいさんぎ)と言われる辺りは、関東と関西の中間っていう面があります。でもそれはミックスということでもなくて、わりと二面性があるんです。
例えば、この話、これだけで90分できるんですけど、一番わかりやすい例でいうと、うどん。名古屋の典型的なうどん屋さん、きしめん屋さんって、つゆが2種類あることが多いんですね。関西よりさらに薄い白つゆと、関東よりさらに濃い赤つゆと呼ばれてるものが両方あってお客さんが選べたり、あるいはその上に何がのるかでデフォルトのつゆが決まっていたりする。そういう二面性がありますよみたいな話だけにしておきますが。
今井 しろたまりもありますね。
稲田 そう、しろたまりも三河ですね。
で、関西、名古屋とそれぞれ発見はあったけど大きな違いはないと思っていたところで、東京へ行き来するようになる。ここから世界ががらっと変わります。
今井 関東じゃなくて、東京ピンポイントなんですね。
稲田 自分が今回の本につながるような、東西の違いみたいなのを意識したのは、もう東京に入った瞬間、そう思ったと。よく関ケ原に東西の境目があるとか、フォッサマグナの影響がどうとか言うけれど、少なくとも食に関しては、根底の思想というか価値観の違いはあんまり感じない。だからやっぱり僕は東京に境目があるとどうしても感じてしまう。
そうした場合のざっくりとした2分類として、関西、特に大阪・京都を中心にスムース・アンド・メロウな世界観。ちょっとでもしょっぱいと文句を言うでしょ、あの人たち。辛いがな~って。だから完全になだらかにするためにだしも使うし甘みも使うし、当然、塩とか醤油の量自体もぎりぎりまで減らすという。スムース・アンド・メロウです。で、東京へ行くと突然、これがストロング・アンド・ソリッドの世界になっていくと。逆に塩気のピッとした尖りとか、甘みの尖りみたいなものが求められる。メリハリがないとぼんやり感じてしまうみたいな。
要するに、東京はDeep Purpleとかハードロック的な世界観。で、関西はたぶん、R&Bなんですよ。
今井 横揺れですね。
稲田 これがたぶん、一番わかりやすいと思うんですけれども。だからやっぱりDeep Purpleのファンから見たら、R&Bとかかったるいなみたいな。
今井 『ハイウェイ・スター』じゃないと(笑)。
稲田 そう。だから西の人からすると、もううるさいわ!みたいな(笑)。
今井 なるほど。
稲田 僕、日本に3プラス1、食の都みたいなものがあると思っていて、それは福岡、大阪、東京、あと特別枠で名古屋。これ、名古屋の話をし始めるとまたややこしくなるので、この三つにしておきます。福岡、大阪、東京の違いが何かというと、福岡と大阪に感じる徹底したサービス精神。何が何でもお客さんを喜ばせるぞという気迫がある。前に仰ってましたよね、たまに大阪とか神戸に戻ると、食べ物屋さんが明らかに違う、みたいなことを。
今井 そうなんです。どこに入っても安めで、間違いなくおいしい。失敗したって思うことって、そうない。
稲田 失敗しないんですよ。関西はお客さんをいかにがっかりさせないかみたいなのがすごい徹底されてるから、その競争原理によって値段も、安くなるのが単純にいいこととも言えないんだけど、みんなが競争して安くなる。対して東京は、お客さんをないがしろにするっていう話じゃないんですけども、わが道を、正しさを追求することを重視してるなと感じますね。
今井 うん、感じますね。
稲田 いいとか悪いとかじゃなくて、正しさの追求、例えばエリックサウスがそうですね。だからエリックサウスは東京から始まってるわけですよ。絶対に関西では始められなかったと思うんです。お客さんが、なんか思ってたのとちゃうわ、と感じてもいい。なぜなら我々は正しさを追求しているのだ、みたいなスタンスは東京じゃないと無理だった。
他にもいろいろ、本当にあらゆるエスニックとかさまざまなジャンルにこの精神性がある。あと、江戸料理。鰻、寿司、天ぷら、あと実はラーメンもこれに隣接していると思ってるんですけど、やっぱり一番東京が極端ですね。ごま油の香りの真っ黒の天丼、僕、大好物で。個人的にはどんぶり物だけは東京に軍配が上がると思ってる。
今井 わかります。
稲田 ああ、今井さんならわかってくれると思った。どんぶり物に関しては、関西はとてもじゃないけどかなわない。
そばのつけ汁が辛くてちょっとしかないのも、あれもやっぱり正しさの追求、言い換えれば「粋」なんですね。粋を大事にするためには万人受けする必要はないとか、万人受けを狙ったら粋とか正しさが薄れてしまう、みたいな感覚が強いんですよね。東京の良さはそういうところだと思います。
【前編終わり】

イベントでは、今井真実さんの初めての弁松体験、人類は「酒を飲む人類、酒を飲まない人類、吉田類」の3つに分かれる説、単行本に収録しそびれた幻のエピソード「牧のうどん」攻略法などなどが盛りだくさん。
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博覧強記の料理人・イナダシュンスケが、うどん・蕎麦・餃子・から揚げ・ラーメン・すき焼き・お好み焼きなどの王道人気メニューから、日本の味の「東西差」を考えるエッセイ。
・おいしさの基準は「関西化」している?
・なぜラーメン店の店主は腕を組んで写真に写るの?
・広島VS大阪 仁義なき「お好み焼き論争」の行方
・日本料理店では「醤油」をなんと呼ぶ?
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