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たとえるなら「関東の味はハードロック、関西の味はR&B!?」稲田俊輔と今井真実が語り合う、東西の味の違いあれこれ。

食の三都物語

稲田 そこから名古屋へ移り住みました。これも実はそんなに違和感なかったんです。僕、一応名古屋市民として声を大にして言いたいのは、皆さん、名古屋には変な食べ物ばっかりあると思ってるでしょ。大体、世の中の人、そう思ってる。で、また名古屋の人もそれを自虐ネタに使うからね。「名古屋の食べ物は全部茶色い、名古屋は味噌だぎゃ」とか、そういうネタとしてやってるからますますそうなる。ここで一つ言いたいのは、名古屋とかあの辺り、一応、愛三岐(あいさんぎ)と言われる辺りは、関東と関西の中間っていう面があります。でもそれはミックスということでもなくて、わりと二面性があるんです。
例えば、この話、これだけで90分できるんですけど、一番わかりやすい例でいうと、うどん。名古屋の典型的なうどん屋さん、きしめん屋さんって、つゆが2種類あることが多いんですね。関西よりさらに薄い白つゆと、関東よりさらに濃い赤つゆと呼ばれてるものが両方あってお客さんが選べたり、あるいはその上に何がのるかでデフォルトのつゆが決まっていたりする。そういう二面性がありますよみたいな話だけにしておきますが。

今井 しろたまりもありますね。

稲田 そう、しろたまりも三河ですね。
で、関西、名古屋とそれぞれ発見はあったけど大きな違いはないと思っていたところで、東京へ行き来するようになる。ここから世界ががらっと変わります。

今井 関東じゃなくて、東京ピンポイントなんですね。

稲田 自分が今回の本につながるような、東西の違いみたいなのを意識したのは、もう東京に入った瞬間、そう思ったと。よく関ケ原に東西の境目があるとか、フォッサマグナの影響がどうとか言うけれど、少なくとも食に関しては、根底の思想というか価値観の違いはあんまり感じない。だからやっぱり僕は東京に境目があるとどうしても感じてしまう。
そうした場合のざっくりとした2分類として、関西、特に大阪・京都を中心にスムース・アンド・メロウな世界観。ちょっとでもしょっぱいと文句を言うでしょ、あの人たち。辛いがな~って。だから完全になだらかにするためにだしも使うし甘みも使うし、当然、塩とか醤油の量自体もぎりぎりまで減らすという。スムース・アンド・メロウです。で、東京へ行くと突然、これがストロング・アンド・ソリッドの世界になっていくと。逆に塩気のピッとした尖りとか、甘みの尖りみたいなものが求められる。メリハリがないとぼんやり感じてしまうみたいな。
要するに、東京はDeep Purpleとかハードロック的な世界観。で、関西はたぶん、R&Bなんですよ。

今井 横揺れですね。

稲田 これがたぶん、一番わかりやすいと思うんですけれども。だからやっぱりDeep Purpleのファンから見たら、R&Bとかかったるいなみたいな。

今井 『ハイウェイ・スター』じゃないと(笑)。

稲田 そう。だから西の人からすると、もううるさいわ!みたいな(笑)。

今井 なるほど。

稲田 僕、日本に3プラス1、食の都みたいなものがあると思っていて、それは福岡、大阪、東京、あと特別枠で名古屋。これ、名古屋の話をし始めるとまたややこしくなるので、この三つにしておきます。福岡、大阪、東京の違いが何かというと、福岡と大阪に感じる徹底したサービス精神。何が何でもお客さんを喜ばせるぞという気迫がある。前に仰ってましたよね、たまに大阪とか神戸に戻ると、食べ物屋さんが明らかに違う、みたいなことを。

今井 そうなんです。どこに入っても安めで、間違いなくおいしい。失敗したって思うことって、そうない。

稲田 失敗しないんですよ。関西はお客さんをいかにがっかりさせないかみたいなのがすごい徹底されてるから、その競争原理によって値段も、安くなるのが単純にいいこととも言えないんだけど、みんなが競争して安くなる。対して東京は、お客さんをないがしろにするっていう話じゃないんですけども、わが道を、正しさを追求することを重視してるなと感じますね。

今井 うん、感じますね。

稲田 いいとか悪いとかじゃなくて、正しさの追求、例えばエリックサウスがそうですね。だからエリックサウスは東京から始まってるわけですよ。絶対に関西では始められなかったと思うんです。お客さんが、なんか思ってたのとちゃうわ、と感じてもいい。なぜなら我々は正しさを追求しているのだ、みたいなスタンスは東京じゃないと無理だった。
他にもいろいろ、本当にあらゆるエスニックとかさまざまなジャンルにこの精神性がある。あと、江戸料理。鰻、寿司、天ぷら、あと実はラーメンもこれに隣接していると思ってるんですけど、やっぱり一番東京が極端ですね。ごま油の香りの真っ黒の天丼、僕、大好物で。個人的にはどんぶり物だけは東京に軍配が上がると思ってる。

今井 わかります。

稲田 ああ、今井さんならわかってくれると思った。どんぶり物に関しては、関西はとてもじゃないけどかなわない。
そばのつけ汁が辛くてちょっとしかないのも、あれもやっぱり正しさの追求、言い換えれば「粋」なんですね。粋を大事にするためには万人受けする必要はないとか、万人受けを狙ったら粋とか正しさが薄れてしまう、みたいな感覚が強いんですよね。東京の良さはそういうところだと思います。

【前編終わり】

稲田さんのたとえに的確なツッコミを入れていく今井さん。対談後編は29日(日)公開予定です。お楽しみに!
稲田さんのたとえに的確なツッコミを入れていく今井さん。対談後編は29日(日)公開予定です。お楽しみに!

イベントでは、今井真実さんの初めての弁松体験、人類は「酒を飲む人類、酒を飲まない人類、吉田類」の3つに分かれる説、単行本に収録しそびれた幻のエピソード「牧のうどん」攻略法などなどが盛りだくさん。
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1,870円(10%税込)
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博覧強記の料理人・イナダシュンスケが、うどん・蕎麦・餃子・から揚げ・ラーメン・すき焼き・お好み焼きなどの王道人気メニューから、日本の味の「東西差」を考えるエッセイ。

・おいしさの基準は「関西化」している?
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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。最新刊は『東西の味』。

今井真実

料理家/エッセイスト/絵本作家。
兵庫県神戸市出身、東京都在住。レシピやエッセイ、SNSでの発信が幅広い層の支持を集め、TV、雑誌、web、企業広告など多様な媒体でレシピ制作・執筆を行う。
身近な食材を使いながら、素材の香りや食感を重ねる料理が特徴で、「知っているのに知らない味」「料理が楽しくなり、何度も作りたくなる」と高い評価を得ている。
また日常を綴ったエッセイも人気を博している。
2023年、日本代表としてオージービーフPRアンバサダーに選出され、国内外に向けたレシピ開発・ブランド発信を担当。海外のシェフや生産者とのコラボレーションイベントにも招致され、海外での活動も行っている。
著書に『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』『料理と毎日 12か月のキッチンメモ』『フライパンファンタジア』、絵本『はじめて・りょうり ごはん』『はじめて・りょうり トマト』ほか。山田詠美との共著『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』では、山田詠美文学に登場する料理の数々を再現。大人気中華飲食グループ「味坊集団」『味坊の味』レシピ化を監修。

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