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たとえるなら「関東の味はハードロック、関西の味はR&B!?」稲田俊輔と今井真実が語り合う、東西の味の違いあれこれ。

東北旅での気づき

稲田 そういう農村文化が食の領域でもがっつり残っているなというのは前々から思ってたんですけども、その視点で去年、東北を10日ぐらいかけて、あらためて旅行してきたんです。

今井 本の中で書いてらっしゃいますね。

稲田 書きおろしの章のためで、旅行というより、全然観光じゃないんですよね。住んだことはないけど、なるべく住む人の感じでみっちり過ごしてみようと。そこでそういう農村文化的なことは感じましたね。日本人、忘れかけてるけど、元はほとんどの地域が農村・漁村だったわけですよ。

今井 そうですね。

稲田 転生ものとかで転生するとみんな戦国大名とか平安貴族とかになりがちなんですけど、そんなの人口の何パーセントかって。ほとんどは農村、第一次産業に従事してたから、転生したら農民でしたっていう話がもっと書かれるべきだと思うんですけどね。

今井 転生したら出世してますもんね、完全に。

稲田 そう、ものすごい倍率かいくぐってますからね。ああいうのは大変よろしくない。ほとんどは農村。我々は何代かさかのぼったらほぼ全員、第一次産業従事者。で、その昔の農村の食文化みたいなのを掘ると、意外と地域性がないなって自分は思います。もちろん細かく見ればいろいろあると思いますよ。
味噌の種類とかも違うけど、でも結局、何かの雑穀を食べて、野菜を味噌で煮て、それで冬になったら野菜を漬物にして。実はあんまり地域差がないというのを感じるんですよね。昔は悪く言えば変化に乏しい農村の食生活を送っていたのが、今、豊かになったり地域差が出たり。その中で古の農村文化は東北とかに残っているし、恐らく点々といろんなところにも残ってると思うんですけど。そういうのをじかに見られたのはうらやましいな。梅干しも、毎年せっせと漬けられてるんですよね。

今井 そうですね。和歌山と小田原に親戚がいて、両方から梅が届くんです。小田原の梅って有名なんですよ。母が商売をやってたから忙しくて、もう本当に小さい頃から、私が夜に母を手伝いながらやるっていう。

稲田 量はコントロールできてるんですか。

今井 コントロールできてないですね。

稲田 できてない(笑)。

今井 はい。レシピの変えどきが……。

稲田 やっぱり変えどきがわからない(笑)。でも梅干しは日持ちもするし。

今井 そう。稲田さん、送ったらいっぱい使ってくれたんでうれしいなって思って。

稲田 ありがとうございます。もう最高でした。

今井 そうやって人に送り付けないと消費しきれないんで、本当に。使ってくれるとうれしいですね。

東北旅をきっかけに、東北の食文化に俄然興味が湧いているという稲田さん。
東北旅をきっかけに、東北の食文化に俄然興味が湧いているという稲田さん。

九州のお醤油のノスタルジー

稲田 僕は九州から関西へ移ったときには、実はほとんど違和感がなかったんです。後で考えると、一つ気付いたことがありまして、鹿児島の一番端っこに住んでたんですけども、我が家はどうも地元の食をそんなに好きじゃなかったんじゃないかと。

今井 重んじてなかった。

稲田 そう、重んじてなかった。うちの家系の人たちは、どうもこんな日本の端っこに住んでるくせに都会に憧れるタイプの人たちばっかりみたいなところがあって。だからこういう地元の食よりも、都会に対する憧れがたぶん、強かった。世代的に伝わる人・伝わらない人がいると思うんですけれども、昔の日本、少なくとも昭和、バブル前と言うべきなのかな。その頃の日本人って、今みたいに郷土の伝統食を大事にしようとかってあんまりなかったような気がするんです。

今井 たぶん、ないですよね。

稲田 ないですよね。どっちかというと地元の伝統食は田舎臭くて古臭くておしゃれじゃないと。それこそ洋食って昔のほうが手放しで尊敬されていたでしょう。洋食イコールおしゃれ、みたいな。なんかそういう感じで、わりと伝統食に対して冷淡みたいなのがあったような気がします。

今井 当たり前過ぎるというか。

稲田 当たり前過ぎる、そうでしょうね。日本がどんどん欧米に追い付いて追い越さなきゃいけないみたいな時代に育っているから。いわゆる「九州の醤油」という独特な醤油がありまして、関東の人は大体嫌いなんですけど(笑)。うちにはその九州の醤油、なかったんですよ。家で一切、九州の醤油を使ってなくて。どうも当時のことを思いだすと、うちの親は九州の醤油をちょっと、何ていうのかな、田舎臭いと思っていたんじゃないか。

今井 本筋じゃない、ぐらいの。

稲田 ああ、そう、オーセンティックではない、みたいな。だから、九州にいながらにして、うちは関西に近かったんじゃないか。

今井 なるほど。逆に言うと甘いお醤油にぶつかったときっていつなんですか? 「これがほんまの地元のお醤油か」って思ったときのこと覚えてます?

稲田 具体的に言うと、しんこ団子という食べ物がありまして。わかります? しんこ団子。

今井 わかりますよ。しんこ餅、ついてますから。

稲田 鹿児島のしんこ団子はみたらし団子と一見似てるんだけど全然違って、とろみが全くありません。で、醤油に付けてただ焼くだけなんだけど、鹿児島の醤油は醤油自体が甘いから、一応、うっすら砂糖醤油味で焼かれる。

今井 なんかそれ、おいしそう。

稲田 そう。すごくおいしかった。

今井 それを食べたときに、こういう味つけをしているのではなく、お醤油単体でこの味なんや!と。

稲田 だから自分の家で、いわゆる全国、それこそキッコーマンとか、千葉の醤油。あれに付けて焼いたりすると、お祭りで食べるしんこ団子とは味が違うなあみたいに思って。

今井 それむしろソリッド過ぎませんか(笑)。

稲田 子どもだから醤油が2種類以上あるなんて思ってもいないから。でもうっすら九州の醤油が刷り込まれてはいたんでしょうね。それをわりとはっきり意識したのは、タイ料理にはまったとき。あのタイ料理の甘い醤油、シーユーダムとかシーユーカオとかに懐かしさを感じたの。

今井 ああ、知ってる味だと。

稲田 そのとき思ったのは、家では確かに食べてなかったけど、給食とかお祭りとか、そういう所で食べてたちょっとひねたようなあの味、俺はこれ知ってると思って。実は好きだったんだみたいなことに気が付いて。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。最新刊は『東西の味』。

今井真実

料理家/エッセイスト/絵本作家。
兵庫県神戸市出身、東京都在住。レシピやエッセイ、SNSでの発信が幅広い層の支持を集め、TV、雑誌、web、企業広告など多様な媒体でレシピ制作・執筆を行う。
身近な食材を使いながら、素材の香りや食感を重ねる料理が特徴で、「知っているのに知らない味」「料理が楽しくなり、何度も作りたくなる」と高い評価を得ている。
また日常を綴ったエッセイも人気を博している。
2023年、日本代表としてオージービーフPRアンバサダーに選出され、国内外に向けたレシピ開発・ブランド発信を担当。海外のシェフや生産者とのコラボレーションイベントにも招致され、海外での活動も行っている。
著書に『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』『料理と毎日 12か月のキッチンメモ』『フライパンファンタジア』、絵本『はじめて・りょうり ごはん』『はじめて・りょうり トマト』ほか。山田詠美との共著『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』では、山田詠美文学に登場する料理の数々を再現。大人気中華飲食グループ「味坊集団」『味坊の味』レシピ化を監修。

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