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たとえるなら「関東の味はハードロック、関西の味はR&B!?」稲田俊輔と今井真実が語り合う、東西の味の違いあれこれ。

好評発売中の稲田俊輔さんによる新刊『東西の味』
刊行を記念して行われたトークイベントの一部をご紹介します。
対談のお相手は人気料理家の今井真実さん。お仕事でご一緒される機会もおありのお二人の、息ぴったりの掛け合いをお楽しみください。
前編では、それぞれの食の原風景から、西日本出身者ならではの本音、関東の味への驚きの解釈が飛び出します。

(構成/よみタイ編集部 撮影/齊藤晴香)
会場・オンラインともにたくさんの読者の皆さんに囲まれてのイベントスタートとなりました。
会場・オンラインともにたくさんの読者の皆さんに囲まれてのイベントスタートとなりました。

ふたりの食のルーツ

稲田俊輔(以下、稲田) 僕は九州の一番端っこの鹿児島で生まれました。ちょっと細かいことを言うと、実は数年、沖縄にも住んでおりました。沖縄にも住んで、そのときにキャンベルの缶入りスープとか、スパムとか、ああいうものが僕の味の記憶のルーツというか。一番古い食の記憶がその辺りのめっちゃアメリカンなやつだった。

今井真実(以下、今井) 初めて聞きました、その話。何歳ぐらいのときですか。

稲田 何歳だろう、物心がつく頃だから。ぎりぎり覚えてる最古の記憶がキャンベルのABCスープ、コンソメ味とトマト味があってトマト味が好きだったみたいな、そんなのだった気がしますけど。
で、そこから、学生時代から社会人の数年を関西で過ごしました。そして20代のうちに東海地方に移り住みました。名古屋ですね。名古屋と岐阜を行ったり来たりしてました。その後、名古屋に住みつつ、東京と行ったり来たりして今に至るという。今井さんは確か神戸出身で。

今井 そうなんです。私は神戸生まれ、神戸育ちですね。

稲田 神戸育ち。おいくつぐらいまで神戸だったんですか。

今井 22~23歳まで。

稲田 じゃあ、もう結構がっつりですね。

今井 もうがっつりなんですけど、実は母が神奈川県の横須賀出身なので、せめぎ合ってた感覚はありますね。うちはちょっと変わってて、本家の敷地内に自宅があったんですよ。本家は隣にあって。両親が商売をしてたので、まず幼稚園が終わると本家に帰るんです。そこで本家の夕飯作りをずっと見てて、こっちは完全に神戸の味。その後自分の家へ帰ると、母は関東の味を作ってる。あ、こういう風に違うんやっていうのをずっと見てたんです。ただ、よく食べるのは母の味だったんで、給食に困りましたね。ちょっと薄甘い感じがするというか。それで自分は文化が入り乱れてるんやな、っていうのを、すごく実感したのを覚えてます。

稲田 なるほど。でも、だんだん高校生とかになってくると、お母さんが用意してくれたものというよりは、自らの意思で食べるものをどんどん選んでいくわけですよね。

今井 はい。やっぱり自分の好きな味はこうやなとか、外で食べたものをこういうふうに作りたいな、って。特に神戸って外国の味が多いんですよ。母は、「作りたかったら自分で作って」っていうタイプで。レシピ本だけはすごくある家だったんで、それを見て自分で作るっていう感じでしたね。

稲田 じゃあ、味覚のベースが関西にあるにせよ、もう最初からわりとミックスした感じで育ってこられたと。

今井 そうですね。夏休みの間はずっと横須賀に行ってたりとか。結構、混ざってますね。

神戸出身の今井さん。自身の味覚のルーツはやはり関西にあると自覚していらっしゃるそう。
神戸出身の今井さん。自身の味覚のルーツはやはり関西にあると自覚していらっしゃるそう。

千葉の食文化にびっくり

稲田 神戸を出られてからはどこへ。

今井 神戸を出て結婚するんですけど、相手が千葉の農家出身の人なんですよ。そうすると完全にお醤油味。すっごいお醤油使うなあって。

稲田 神奈川の味を知っていたとしても、同じ関東でも千葉へ行くと違う?

今井 全然、違いましたね。

稲田 全然違うんだ、やっぱり。

今井 母の実家は横須賀で海のほうなので地魚や茹でた貝などがよく食卓に並んでました。夫の実家は千葉の山のほうで、米と野菜農家を営んでいます。いろんな野菜の保存食としてお漬物などもよく作りますね。料理する素材も違いますし。

稲田 ご結婚されたときはもう料理関連のお仕事は始められていたんでしたっけ?

今井 ちょこちょこ料理教室をしたりしてました。夫の実家でお味噌作りとか。農家なので婦人会みたいなのがあって、麹も手作りして、保存食とか発酵をそこで教わってきたっていう感じですね。

稲田 そういう農村文化みたいなものをじかに経験されたっていうのは、僕はすごくうらやましく思いますね。一応、父方の祖父母の家は農村だったんですけど、農村的な生活みたいなものがもう完全に終わった後で。漬物を漬けることもなかったし、味噌も買ってたし、多少野菜を作る程度みたいな。なので、それがうらやましいなと思いますね。

今井 でもやっぱりカルチャーショックの連続というか、ご飯を作ってる最中でも保存食を作りに出かけちゃうんですよ。「今からコンニャクを作らないと」って。

稲田 それは婦人会で集まってそういうものをみんなで作ると。

今井 そうですね、独特なタイムスケジュールの中で動いてるなっていう感覚はあります。お餅を作るのにスケジュール追われたりとか。何を差し置いてもお餅を作りに実家に帰らないといけないんですよ。

稲田 行事食みたいなものがもう鉄のルールとして年間にはまってきてるわけですね。

今井 これ、なんで作ってるんやろ?って毎回、思ってるんです。

稲田 いや、それは保存して食べるためだから。

今井 食べるためなんですけど、その割には量が多い。食べ切れないから結局、周りに配るみたいな。変えどきがみんな、わからないんですよね。

稲田 変えどき?

今井 できあがる量を変えない。昔からずっと同じ量でやってるから、レシピは変えられないんですよ。

稲田 なるほど。分量がどうって話じゃなくて、その樽じゃないといけないとか。

今井 そうなんです。

稲田 いや、でも貴重ですよね。憧れますけどね、そういうの。

今井 レシピも昔のものと分量変わっていってるじゃないですか。保存食も、そういう転換期がいつ来るんだろうっていうのはいつも思ってます。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。最新刊は『東西の味』。

今井真実

料理家/エッセイスト/絵本作家。
兵庫県神戸市出身、東京都在住。レシピやエッセイ、SNSでの発信が幅広い層の支持を集め、TV、雑誌、web、企業広告など多様な媒体でレシピ制作・執筆を行う。
身近な食材を使いながら、素材の香りや食感を重ねる料理が特徴で、「知っているのに知らない味」「料理が楽しくなり、何度も作りたくなる」と高い評価を得ている。
また日常を綴ったエッセイも人気を博している。
2023年、日本代表としてオージービーフPRアンバサダーに選出され、国内外に向けたレシピ開発・ブランド発信を担当。海外のシェフや生産者とのコラボレーションイベントにも招致され、海外での活動も行っている。
著書に『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』『料理と毎日 12か月のキッチンメモ』『フライパンファンタジア』、絵本『はじめて・りょうり ごはん』『はじめて・りょうり トマト』ほか。山田詠美との共著『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』では、山田詠美文学に登場する料理の数々を再現。大人気中華飲食グループ「味坊集団」『味坊の味』レシピ化を監修。

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