2026.1.25
【吉田類さん×稲田俊輔さん『東西の味』刊行記念対談 】「異世界に来た!」 東京の味に カルチャーショックを受けました
新刊の刊行を記念して、稲田さんが会いたいと熱望した吉田類さんとの対談をお届けします。人気テレビ番組『吉田類の酒場放浪記』(BS‐TBS)でおなじみの酒場詩人、吉田類さん。稲田さんによる、類さんへの熱いプレゼンから対談が始まりました。
(『青春と読書』2026年2月号より転載 構成/砂田明子 撮影/露木聡子)

「吉田類検索」と「吉田類分類」
稲田俊輔(以下、稲田) 僕は長年、「吉田類研究家」を自任してきました。初対面で恐縮ですが、長年の研究成果のごくごく一部を発表させていただきたいと思います。
吉田類(以下、吉田) はい。よろしくお願いいたします。
稲田 トピックが二つありまして、一つは「吉田類検索」という検索技術を開発しました。開発と大袈裟に言いましたが、Google検索で「地名」+「吉田類」と入れるといい店が一発で発見できる、というものです。私は地方出張によく行くんですが、見ず知らずの土地に行って困ったときも、この検索技術を使うとちゃんと出てきます。すみません、この発表は敬称略で失礼します。
もう一つが「吉田類分類」という居酒屋分類法です。これは「有類類」と「無類類」に分かれます。まず「無類類」は、吉田類が来店する可能性がほぼない店です。日本の居酒屋のほとんどは、実は無類類であると私は思っています。たとえば大手チェーン店、宴会需要がメインの店、さすがに庶民的すぎる店も無類類に入るだろうと。もう一つ、ここに属するのがギラギラした店です。言うなればこの「ギラギラ目」もいくつかに分類できるのですが、その中で私が注目しているのが「地元じゃ負け知らず系」と呼んでいるグループです。地方都市のターミナル駅周辺に、ドミナント的に複数店舗を展開する、野心家の社長に率いられた新興居酒屋グループの店。ここは料理のクオリティが高く、接客もフレンドリーかつ親切で、飲食店としてのスペックはめちゃくちゃ高い。ですが、吉田類分類では「無類類」です。
吉田 そうなるでしょうね。
稲田 そうですよね。で、ここからが本番、「有類類」についてです。吉田類が来店する可能性のある店が「有類類」に入るわけですが、ここはさらに二つに分かれます。「有類類既類目」と「有類類未類目」です。まず、先ほどの「吉田類検索」の検索結果に出てくる店は「有類類既類目」です。一方、吉田類の訪問が確認できていない店が「有類類未類目」に入る。もちろんプライベートで訪れているかもしれませんが、あくまで我々から見た分類です。
吉田類検索は非常に便利で常々お世話になっているだけに、便利すぎて使うのが悔しいときがあるんですね。そういうときは知らない土地でも自分の嗅覚だけを頼りに酒場を探します。僕もそこそこベテランなので、ここはいい店だろうなというのは空気というか、言語化できない何かでわかるようになってきて。
吉田 僕はそういうのを「酒場オーラ」と呼んでいます。
稲田 それです! 酒場オーラを感じて店に入るんです。で、予想通りいい店だと気分よく飲んで、途中でお手洗いに行ったりすると、吉田類の色紙を発見したりする。未類目だと思っていたら既類目だったのかと。しょせん、俺も類の掌の上か、みたいな感じでちょっとがっかりしつつも、でも類さんが見つけた店を自力で発見できたという喜びに浸る。
一方、色紙を発見できなかった場合は、店を出て、念のため吉田類検索をします。出てこなかったらしめたもので「有類類未類目」であることが一旦確定します。知り合いにどこかいい居酒屋ないかなあと聞かれたときは、ここを紹介するわけです。「吉田類もまだ見つけてないんだけどね」と全力でドヤ顔して。ですから「有類類未類目」をいかに探し当て、そこに通うかは、僕にとっての重要なテーマであるということをお伝えして、今日の発表は以上とさせていただきます。
酒場を見分ける 「酒場オーラ」とは?
吉田 面白いなあと思ってお聞きしました。僕はほぼ日本中を回っていますし、名乗らないで帰る店も多いから、「未類目」でも行っているお店はやっぱりあるだろうと思いますね。
稲田 やはりそうですか。
吉田 ただね、店を探そうと思って探したことはあまりないんですよ。地方に行っていい店ないかなと思ったときは、たとえば酒屋さんで訊きますね。いい酒を卸している店を知ってますから。あるいは地元の新聞記者に訊く。そうやってポイントを絞ってますね。そうするとほとんど間違いないんだけど、違うなと思ったときは別の視点で見ます。それは歴史ですね。古いほうが僕にとって面白いのと、長くやっている個人店はいろいろと試行錯誤して、長くお客さんのニーズに応えているわけですから、それなりのよさがあるということです。
稲田 なるほど。それからさきほどおっしゃった「酒場オーラ」でも店を見分けていらっしゃる。
吉田 そうですね。オーラというのは抽象的な表現なんだけど、盛り上がっている店はだいたいうまいということです。これは豪華とも違って、経験がないとわからない感覚かもしれませんね。経験と、それから幅ですね。僕は若い頃、パリを拠点にヨーロッパを放浪し、飲み歩いていました。パリと日本の酒場文化は全く違うものなんだけど、この〝幅〟が、酒場を見るベースになっています。
稲田 外からの目線、遠くからの目線があるから見えてくるものがあるということですね。
吉田 そういうことですね。

東京は異世界、 「煮込み」に驚く
――〝外〟や〝遠く〟の視点は、さまざまな土地で暮らした経験のある稲田さんにも備わっていて、新刊『東西の味』に発揮されていると感じます。
稲田 僕は九州(鹿児島)出身で、大学進学を機に関西へ移って卒業後も含めてしばらく住み、それから名古屋に自宅を持って、東京でもしょっちゅう仕事をするようになったんです。西から徐々に東に向かっていったから、味の違いをドラスティックに体験してきたわけですが、東京に来たときに、一番カルチャーショックを受けました。「異世界に来た!」と。知っているようで知らない味が出てくるんです。おでん屋さんでも、今は関西風のおでんを出している店が増えましたが、昔からの店だと真っ黒なおでんが出てくる。構成は慣れ親しんだものなんです。大根、練り物、たまご。味付けだって昆布だしに醬油、みりん、砂糖と全部知ってる味なのに、トータルとして、全く知らない味だった。そういうことが、煮物でもきんぴらでも、蕎麦でもうどんでも、いろんな料理で起きて楽しくてたまらなかったんです。
吉田 全く同じですね。僕が東京で驚いたのは下町の味、「煮込み」です。最初に見たとき、これ、食べられるのかな?と。僕は高知出身で、関西は、肉を煮込まないですよね。すき焼きのように「焼く」はあるんだけど「煮込む」はあまりないから驚きました。何だかわからない内臓がいっぱい入ってるし。でもこれがおいしかった。煮込みの内臓は牛であったり豚であったりするんですが、東京では戦前から食べられていて、戦後になると、米軍が食べた肉の余りが内臓で、安価だったから下町を中心に庶民に広がったという独特の歴史があるんです。
稲田 僕も「煮込み」には驚きました。まず何に驚いたかといえばメニュー名が「煮込み」なんです。最初、何の煮込み? と思ったんですが、東京の人には説明不要なわけですよね。基本的には豚の白もつの煮込みが多くて、店に入ったら最初にそれを頼むと。常に鍋でぐつぐつ煮込まれているから、温かい料理がいきなり出てくる。いいなあと思って。
吉田 東京の下町といえば煮込み、それからチューハイです。これも米軍が飲んでいたハイボールを真似て、でもウイスキーは高いから焼酎にして、下町の大衆酒場に広がっていった酒ですね。こういう東京の広さというか多様性に驚いて、僕は当時住んでいた国立から、下町に引っ越したんですよ。気づいたら「酒場放浪記」が始まっていたという感じです。
これまでも全国を回ってきましたが、最近は意識的に地方に行っています。僕は山が好きで登山をしますから、地方でも時間があれば山に登って、下りたら一杯やるんです。その土地にしかないものはやっぱり面白くて、先日は一週間沖縄に行って、魚や料理とともに泡盛を楽しみました。消毒しすぎまして、まだちょっと喉が回復しないんですけど(笑)。
稲田 酒場における郷土料理的なものと、いわゆる地方グルメって違いますよね。
吉田 違いますね。
稲田 お役所が郷土料理として給食に導入するようなものともまたちょっと違う、酒場で出合うしかない食べものが僕は好きで、少し前に東北でそれを見つけました。「きゅうりの辛子漬け」という、きゅうりに、塩と砂糖と辛子の粉をまぶしただけの簡単なものが抜群においしかった! 名前は聞いたことがあったものの食べたのは初めてで、こういう発見をしたとき、地元の人に「おいしいですね」「珍しいですね」と言いたくなるんですが、言うと、そんな取るに足らないものを……と恐縮されがちなので、一人でニヤニヤして楽しむようにしています。
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