2021.8.13
「チヨちゃんが来たんだね」
両親は、私が小さい頃に離婚している。
私を引き取った母は、私が成人するまでがむしゃらに働いてくれた。
そのおかげで私は無事に就職し、婚約者とも結ばれることとなった。
彼との結婚直前、女手ひとつで育ててくれた母と二人きりのホームパーティーを催した。
「そういえば、お母さんたちが別れる前、ずっと不思議なことが続いてたんだよ」
昔ばなしに花が咲くうち、当時の記憶がよみがえってきた。
あの頃はいつも、親が言い争う声で起こされたものだ。
大人になった今ならわかる。いちおう父も母も、私の目の前ではなく、寝た後でケンカするよう気遣ってはいたのだろう。でも毎晩、目が覚めるほどの怒号を二人してあげていたのだから、はっきりいって意味のない気遣いだった。
そんな時、私はいつも、じっと暗い天井を見つめていた。そうしていると必ず、うっすら浮かぶ木目の模様に、黒いモヤのようなものが重なってくるのだ。
それは次第に、はっきりした影になっていく。天井にぴったりはりつく、小さな人の影。
私と同じ背丈、同じおかっぱ頭の女の子だ。
自分の影が映っているんだな、と思っていた。もちろん真下に光源でもない限り、そんな現象はありえない。まあ、子どもの勘違いだから仕方ないだろう。
隣室の怒鳴り声と、天井にはりつく人影。
私は毎夜、それを聞き、それを見つめていた。