2021.8.6
あの家に住んでいた頃のこと
あの家に住んでいた少年時代、よくこんな夢を見ていた。
夏の日射しが照りつける中、とぼとぼとあてもなく歩いている。周りの風景は近所の見知った路上だが、昼日中なのに誰の姿も見当たらない。
そこでふと、足が止まる。すぐ脇にあるのは、毎日のように通り過ぎている電柱。それがどうにも気になってしまう。首をうつむかせてみると、電柱の下の方に二体の人形がぶらさがっている。
誰もが知っている、有名な女子向けのお人形シリーズだ。その代表格である女の子と男の子が、一体ずつ捨てられている。
いや、ただ捨てられているだけではない。二体とも首に細い紐がまかれ、それが電柱の一番下のボルトに結ばれているのだ。まるで首つりのように、ぶらんと空中に垂れ下がり、ゆらゆらと揺れる二体の人形。
それらが同時にゆっくり回転し、こちらに顔を向けてくる。そうして目と目が合ったと思った瞬間。
二体の顔が、まるで自分をにらむように、きっと険しくなった。
とたんに怖ろしくなり、その場から逃げ出す。わが家を目指し、無人の道路を息せききって走る。ようやく自宅の玄関にたどりつき、ドアノブに手をかける。
ああよかった、ちゃんと帰れた。安心しかけたところで、脇の表札が目に入り、体がすくむ。そこには、自分たちと別の苗字が記されていたから。
ある日を境に、そんな夢を何度も何度も見るようになってしまった。
ただの夢だと思いつつも、さすがに回数が重なれば不気味になってくる。そこでとりあえず、三歳下の妹にだけ、こっそりと打ち明けてみた。
すると驚いたことに、妹もまた、同じ時期から同じ夢を見るようになったのだという。聞けば聞くほど、細部にいたるまでまったく自分のそれと似通っている。
こんな偶然がありうるのだろうか?