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SF作家はどうして未来を予測できないのか──直木賞作家・小川哲の傑作エッセイ【全文公開】

SFは想像力を拡張する

 つまり現代において、未来を考える上では、「人類には何ができるか」を考えるだけでは不十分だ。同時に「人類は何をしてはいけないか」も考えなければならない。どれだけ便利な技術でも、それが特定の誰かを傷つけるものであれば、僕たちは利用することができなくなってしまうかもしれない。世の中には様々な価値観を持った人たちがいて、僕たちはそれぞれの価値観を可能な限り認めていかなければならない。

 そんな時代に、正確に未来を予測することなどほとんど不可能なのだ。

 SFとは何か。あくまで僕個人は、「科学的な空想によって人々の知識と想像力を拡張する芸術」だと考えている。SF作品ではしばしば、極端な状況や、大げさな設定が使用される。宇宙人が地球に侵略してきたり、核戦争で世界が滅びたり、全体主義によって国家が支配されたりする。それらは未来を予測するためのものではなく、人々の想像力を拡張するためのものだ。

 地球にやってきた宇宙人は何を考えているのかも、何を目的にしているのかもわからないが、それでも彼らとコミュニケーションを取らなければならない。宇宙人が実際にやってくるかどうかは別にして、僕たちは自分が理解のできない存在と出会うことはあるだろう。それは世代の差だったり、文化の差だったり、価値観の差だったり、人種の差だったりするだろう。そんなとき、宇宙人と出会うことへの想像力が、何かヒントをくれるかもしれない。

 SFで描かれる極端で大げさな未来は、僕たちが現実世界で抱える不安や矛盾を目に見える形に置き換えたものだ。僕たちが人間であり、SF作家が人間である以上、「極端で大げさな未来」が実際に訪れなかったとしても、同様の問いは残される。

 こうして、SFは人々の固定観念を見つけだし、その事実を突きつける。科学技術が誰かを傷つける可能性や、傷ついた誰かを救う可能性を提示する。僕たちが考えているよりずっと世界は広いのだと教えてくれる。技術と倫理が抱える難解な問いに対して、正面から向き合う。
 
 僕たちは人間だ。しばしば、深刻な問題に見て見ぬふりをしてしまう。物事を偏った視点で見てしまう。自分の常識にとらわれて本質を見失ってしまう。もちろん、それらをすぐに、根本的に解決する手段など存在しないが、SF作品はそこから抜け出すヒントを与えてくれると思う。

 巷には数多くのSF作品が流通している。それらの作品によって常識が覆される経験を、それらの作品が提示した問題に心を悩ます経験を、それらの作品が示した希望に生きる力を与えてもらう経験を、ぜひ味わってもらいたい。

(了)

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小川哲

(おがわ・さとし)
1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。2017年『ゲームの王国』で第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。2022年『地図と拳』で第13回山田風太郎賞、翌年同作で第168回直木三十五賞を受賞。同年『君のクイズ』で第76回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞。他の著作に『嘘と正典』、『君が手にするはずだった黄金について』、『スメラミシング』などがある。

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