2022.4.20
野村克也、田中角栄……すぐれたリーダーが持つ言葉の力とは?【畠山理仁×加藤弘士対談】
野村克也、田中角栄……リーダーの持つ言葉の力と責任感
加藤
『コロナ時代の選挙漫遊記』を読んで、僕も含めて候補者のスピーチを有権者はちゃんと聞いていないことを痛感したんです。きちんと駅前とかの演説を聞いてみると、必ず候補者の人柄であり、候補者の持つ政治家としての力量を感じることができる。そういうことをせず投票したことあるなって反省しました。リーダーが持つ言葉や言葉力って、改めてすごく大事なんだなと思っています。野村監督は、すごく言葉の力を持つ人です。監督の言葉で選手たちの行動が変わっていくし、僕も含めて、そばで接していた人間がみんな監督の言葉で成長できているようなところがありました。畠山さんは、言葉力という意味で、取材した政治家や候補者の中でこの人はすごかったなという方はいらっしゃいましたか?
畠山
この人かぁ……。いや、みなさんホームランは打つんですよ。ただ、打率の低い人もけっこう多いんです。加藤さんの本を読むと、野村さんは本当に高打率の方なんだと思いました。
加藤
三冠王ですから(笑)。657本のホームランを打って何度も3割も打っています。言葉も高打率でちゃんと長打力もあるっていう。
畠山
だから加藤さんは孤独とはいえ、必ずいいスイングやバッティングを見にいける確信があったから通い続けられたんじゃないですか。自分は空振りが多い方もたくさん取材してきましたが、でも、そもそも今までこの人が打席に立っていることすら知らなかったじゃないか、という思いもあるんです。じゃあ、打席ではどうなのか、どんなスイングをするのかって見にいくと、打率は低いかもしれないけど、すごく記憶に残るようなホームランを1発打つこともある。1発しか打たない人もいますけど、いらっしゃるんです。とにかく試合があるところに行けば、何かしらの名シーンを目撃できるという自信があります。
言葉力という意味でいうと、大体、選挙に出る人って、いろんな意味で「変わり者」なんです。いまの選挙制度は新規参入のハードルがものすごく高くなっているので、変わっている人しか出られないようになっているんですね。だからその壁を乗り越えて立候補した人はみんな面白いです。特に誰の言葉がというわかりやすいところでいうと、やはり田中角栄さんとかはキャッチーな言葉を使うし、打率の高い方でしたよね。ただし、世間の人たちが思っている評価と、自分の評価に大きなギャップがあることもあります。例えば小池百合子さんの言葉は世間の人たちの心に響くからたくさん票が入ったりするわけですけど、現場で取材している自分自身はあまり魅力を感じなかったりするんです。みなさんが熱狂する理由はもちろんわかりますけど、じつはもっと面白いことを考えている人もいる。上から見た聞こえのいい言葉じゃなくて、自分たちの目線で言葉を発している人もちゃんといます。
野村克也さんの言葉は、政治家でも結構いろんな方が引用したりしていますね。野村さんがよく語っていた「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」っていう有名な言葉がありますよね。もともとは江戸時代の大名の松浦静山の言葉だと思いますが、この言葉は中村喜四郎さんも言っていました。
加藤
中村喜四郎さんが言っていましたか!
畠山
はい。昨年の衆議院議員総選挙で、それまで14戦無敗だった中村喜四郎さんが初めて小選挙区で負けたんです。その敗戦の弁で、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。今回、負けたのは自分に理由がある。私の不徳の致すところ」と語っていました。もともとは野村さんの言葉でなくても、野村さんが言ったことで世の中の人の多くはこの言葉を知っているわけじゃないですか。名言安打製造機みたいなところがある。ちなみに野村さんって、そういう言葉をメモして貯めていたんでしょうか。