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組織のパワーゲームが好きな男、仕事の達成感が好きな女

組織のパワーゲームが好きな男、仕事の達成感が好きな女

今になって気づいた 若い頃のセクハラ被害

上野 テイラーメイドの男社会に洗脳されていると気づいたのは、いつ頃でしたか。

浜田 やっぱり管理職になってからですね。会社の論理に巻き込まれるようになって、自分は男性と同じように働いてきたけれど、“男村”には入っていなかったと気づいたんです。「子育てをしている女性には責任ある仕事は無理だろう」という男性の本音も聞こえてきて、「この男村に入るのは生理的に無理だ」と思ったときに覚醒しました。

上野 それ、本当によくわかるわ。会社で「女性初」の役員になった人たちに話を聞くと、「男並みに働いても、男のパワーゲームの正式なメンバーになることは絶対にない。どんなに会社に貢献しても、男並みのリウォード(報酬)は返ってこない」とおっしゃいます。

浜田 会社という男社会を、冷めた目で見ているんですね。だから私もそうですが、早期退職する女性が多い。

上野 私の知る限り、トップに登りつめた女の人でも「会社と心中しよう」なんて人はいません。みんな半身で組織とかかわっていますよ。

上野千鶴子氏
上野千鶴子氏

浜田 会社は利益を追求することに貪欲だし、冷酷です。当然、働いている人たちが苦しむことになる。だからむしろ「なぜ男性は会社との関係や働き方に疑問を持たずに組織に組み込まれているのかな」と疑問なんです。

上野 彼らは仕事の達成感が好きなだけじゃなくて、パワーゲームが好きでしょうがないんだと思いますよ。アメリカのジェンダー研究者が言っていましたが、「男たちの多くは仕事から帰ってきても長い時間をスポーツ観戦、つまり勝負ごとの世界に費やしている」と。リアルでもバーチャルでも勝ち負けが大好きで、体に染みついているんでしょう。

浜田 さきほど「管理職になって生理的に無理だと感じた」と言いましたが、実はハラスメントについてはすごく鈍感だったと思います。

上野 今になって思い当たることがたくさんあるんですね。

浜田 そうです。若い頃に自分がされたこと、たとえばいきなり抱きつかれるとか、社員旅行の宴会で浴衣を着ろと言われるとか、今思えばあの時イヤだったんだと思うんですが、その時はやり過ごさなければ仕事ができないと思い込んでいた。『働く女子と罪悪感』を書いていたときに、テレビ朝日の女性記者が財務省事務次官からセクハラ被害を受けていたことが明らかになりましたが、「私にもそういうことがあった」ということが、まるでフラッシュバックのようにどんどん思い出されて。

上野 以前は「セクハラは職場の潤滑油」と言われていましたからね。それがなくなればギスギスする、と。

浜田 あの報道を見て、90年代に私たちが「そんなことをされるのはイヤです」と言わなかった罪をものすごく感じたんです。そのせいで今も若い女性が苦しんでいる、と。

上野 確かにそういった報道や#MeToo運動が起きたことで、上の世代の女性たちが変わりましたね。それまでは「男性が近寄ってきたらいなすのがあたりまえ。声を上げるなんてみっともない」と言っていたけれど、下の世代に対して「ごめんなさい」と言う女性が登場してきました。ただ、新聞労連の女性の中に「私たちはこの問題の当事者なのに、ジャーナリストとして当事者にならない訓練を受けてきた」と言う人がいたんです。あれには驚きました。「客観中立」報道の神話がまだ生きているんですね。

当事者性のないマスコミが 説得力を持てるのか

浜田 それについては、マスコミにいる人間として思うところがあって。「客観中立」という考え方が、記者という存在を傍観者にしていると感じるんです。

上野 「客観中立」が職業倫理だと考えているんですね。

浜田 はい。そういう考え方が、今のマスコミに対する批判にもつながっているのではないかと思うんです。でも記者も働いているひとりの人間だし、人の親だったり子だったりする。私は生身の自分があってこその報道であり、「私はこう思う」ということを出す時代になってきたと考えています。

浜田敬子氏
浜田敬子氏

上野 メディアの人たちには「長時間労働が問題だとか生き方改革とか言っているけれど、あなたたちの足元はどうなの?」と言いたくなります。#MeTooのときも、マスコミが自分たちの問題として考えているとは思えませんでした。

浜田 一連の#MeToo報道で「本当におかしい」と思ったのは、被害者のことばかり取り上げたからです。「女性の態度はどうだったのか」とか「どうして断らなかったのか」とか。「違うでしょう! 加害者が問題でしょう?」と思って、テレビにコメンテーターとして出演するときはいつも「なぜ彼らがハラスメントをしたかという話にして下さい」と言っていました。

上野 テレビ局側が話をそういう構成にしちゃうのね。私が怒りを感じたのは、日本の#MeToo運動を報道しなかったのはメディアの責任なのに、「#MeToo運動は海外では拡がったのに、なぜ日本では拡がりを持たなかったんでしょう」と聞きにくるメディアの姿勢でした。「ネット上の動きがいっぱいあったし、東京でもそれ以外でもいろんな集会が行われたのに、まるっきり報道しなかったのはあなたたちでしょう」と言いましたが。一方アメリカでは「#MeToo運動はセレブイベントで、メディア映えするから報道された」などと言う人もいたようです。

浜田 でも#MeToo運動が報道されたからこそたくさんの人に伝わって、去年のアメリカの中間選挙では多くの女性候補者が生まれた。やっぱり社会は一気に変われないから、少しずつでも変わって、続く人が出てくることが大事だと思います。さきほど記者の当事者性の話が出ましたが、頼もしいことに私より10歳から15歳くらい下の女性たちが声を上げ始めています。私が新聞社にいたときはジェンダーに関する記事は本当に掲載されにくかった。2年前、若い女性記者たちから「国際女性デーに合わせて女性が読みたいと思う記事を出したい」という相談があって、管理職だった私が役員に橋渡しをしたことがありましたが、そういう声が若い女性記者たちから出たこと、そして行動に移していたことが希望だと思いました。それは彼女たち自身が生き方や働き方に悩んでいたからだと思います。私たちの世代は子どもをあきらめて働くか、それとも仕事を辞めて子どもを産むかという選択肢しか考えられない人がほとんどでした。でも今は男性も含めて、子どもがいてもいなくても、人間として普通に生活をして働いていきたいと考える人が増えている。そして「出産後も第一線からはずされたくない」「自分たちにとって興味がある女性問題を書きたい」と考える記者も増えています。

上野 それはマスコミの中で女性の存在感が高まったということでもあるでしょうね。

浜田 私自身について言えば、新聞から雑誌に移ってすごく楽になったんです。仕事のスパンが毎日から1週間になったこともありますが、やはり新聞という王道の部署でなかったからこそ自由に働けたということはあると思っています。女性が働き続けるためのひとつの手として、若い女性にはよく「あえて会社の保守本流の部署ではないところや新規事業部署に行くといいよ。自由度が上がるから」と言っています。

上野 それはサバイバルのひとつのテクニックですね。ソンしてトクをとるニッチ戦略ですが、本流とは言えません。

浜田 そうです。そこで活躍できたら評価につながるので、やってみる価値はあると思います。

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新刊紹介

浜田敬子

はまだ・けいこ●1966年山口県生まれ。ジャーナリスト。上智大学法学部卒業後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」編集部を経て、1999年から「AERA」編集部。2014年に女性初の「AERA」編集長に就任。17年に退社し「Business Insider Japan」統括編集長に就任、20年末に退任。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニンショー」、TBS「サンデーモーニング」などでコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティに関しての講演を行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)がある。

上野 千鶴子

うえの・ちづこ●1948年富山県生まれ。社会学者。専攻は家族社会学、ジェンダー論、女性学。東京大学名誉教授。NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。著書に『家父長制と資本制』 『近代家族の成立と終焉』(ともに岩波書店)、『おひとりさまの老後』『上野千鶴子のサバイバル語録』(文春文庫)『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)、『女ぎらい』(朝日文庫)などがある。

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