2019.4.4
「産め、働け、そして輝け」は簡単じゃない。女性が仕事をしていく上で、大切なこととは。
『かたづの!』を、ビジネス小説として 読むと……
浜田 ところで先日、中島さんの小説『かたづの!』が里中満智子さんの絵で漫画化されましたね。小説もものすごく面白く拝読しました。史実を基にしたお話ですが、ビジネスものという見方もできると思って。
中島 えっ! どんなところが?
浜田 領主の夫を亡くした祢々が、故郷を守るために女大名になって孤軍奮闘する物語ですが、彼女が管理職の女性に見えてきたんです。祢々は自分の領土をねらう叔父の策謀に翻弄(ほんろう)されますが、娘婿という参謀を得て上手に立ち回っていく。女性が管理職になった場合も、彼女のように若くて賢い男性の部下を持つとうまくいくことが結構あるんです。
中島 なるほど、そうなんですね。
浜田 私も管理職になったとき、同世代より下の男性社員がすごく味方になってくれました。なぜなら、私も彼らも新しいことをしたいと思ったから。私がアイディアを話すと「こういうクライアントがいます」とか「だったらこうやりませんか」とか、いろいろな案を持ってきてくれたんです。『かたづの!』を読んでそのことを思い出しました。
中島 すごい! 今までそんな読み方をした人はいませんでした(笑)。
浜田 祢々は国替えも余儀なくされますが、それについての娘婿のアドバイスがまたよかった。彼の頭にあった自分たちの将来は、祢々が考えていたものよりはるかに大きかったですよね。私はつねづね男性より女性のほうが正義感は強いと思っていますが、組織ではそれをストレートに出すとうまくいかないことが多い。将来のゴールを設定したら、多少正義感に反しても根回しをすること、時間をかけて冷静に戦術を考えることが必要なんです。そしてそれが得意なのは、男性のほうだなあと感じることが多かったです。
中島 祢々は羚羊や河童や猿回しといった者たちの力を引き入れますが、いろいろな立場の者たちを生かすのは女性のほうが得意かもしれないですね。
浜田 そう、男性は人物よりポジションを重視しがちだから。
中島 ダイバーシティ(多様な人材を積極的に活用しようというやり方)が大事ということですよね。「なぜ組織に女性が必要なのか」と言われることがありますが、男性にはない発想ができるからだと思います。女性に限らず、LGBTの人でもいいし、外国籍の人でもいい。企業が新しいことをしたいと考えるなら、新しい血を入れるべきでしょうね。
浜田 もうひとつ私が深読みしたところがあって(笑)、祢々が最初抵抗した国替えは「左遷」という見方もできる。「不本意な場所に赴任したら、荒れていたけれど立て直し甲斐があって、そこで力を発揮して本社復帰」みたいな話は実際よくあるんです。つまり、自分が向いていると思うことをずっとやるのではなく、「お前、こっちをやってみたら」と言われたらやったほうがいい。必ず発見があると思います。
中島 自分では全く意識していませんでしたが、『かたづの!』ってチーム作りのお手本であり、企業小説としても読めるんですね(笑)。
浜田 若くて優秀な男子を味方につける。この小説を読んで、女性管理職が組織で生き残る道はそれだと確信しました(笑)。
構成・文/山本圭子
撮影/chihiro.
◆浜田敬子さんの特集対談③はこちらから→https://yomitai.jp/special/hamadakeiko-03/