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受験への執着を煮詰めたザ・ノンフィクション──小説家・金子玲介が読む『学歴狂の詩』

偏差値や大学名に異様な執念を持つ人間たちを描くノンフィクション『学歴狂の詩』(佐川恭一著)が重版出来!
今回、著者とデビュー前から親交の深い小説家・金子玲介氏(『死んだ山田と教室』他)による書評を公開します。

(この人はリアルでも学歴に取り憑かれているんだな)

 佐川さんは永遠に受験の話をしている。私は佐川さんの小説を商業デビュー以前も含め十年近く読んできているが、ほとんど取り憑かれたように、受験・文学賞・非モテという三つの柱の周りをぐるぐるぐるぐると回り続けている。

 佐川さんと私がはっきりと知り合ったのは、たしか2015年のことである。「はっきりと知り合う」という妙な表現をしたのは、二人がCRUNCH MAGAZINEという小説投稿サイトの住人だったからだ。狭い投稿サイトだったので、なんとなくお互いを認識していた気はするが明確に言葉を交わした覚えはなく、2015年の文藝賞で落選した私の小説を佐川さんが褒めてくれたのをきっかけに、定期的にお互いの小説を読んでは感想を送り合う仲になった。初めてオフラインで会ったのは2017年で、私が公認会計士であることを告げるやいなや「公認会計士と言えば同志社に落ちた友だちが公認会計士やってて、」と語りはじめ、(あ、この人はリアルでも学歴に取り憑かれているんだな)と戦慄したのを覚えている。

 さて、『学歴狂の詩』は、そんな佐川さんの濃厚でリアルな狂いっぷりが炸裂した、キャリア初のエッセイ集である。これこれ!この佐川恭一が読みたかったんだよなぁ!と手を叩いて喜んでしまうような、佐川さんの執着を煮詰めたザ・ノンフィクションに仕上がっており、最高だ。佐川さんの小説群を佐川恭一の塩焼き、煮付け、唐揚げ……とすると、本書は佐川恭一の刺身といった趣の一冊である。誰それがどこの大学に落ちたという話に「知らんがな」と思い続けながら、なぜかページをめくる手が止まらないのだ。

 これは皮肉でもなんでもなく、佐川さんはずっと同じものを書き続けているから、私は佐川さんの書く文章が大好きだ。佐川さんが受験・文学賞・非モテの周りをぐるぐるぐるぐる回り続けて飛び散った汗が、鋭利な文体に照らされ、さまざまな色に光るのを眺めることでしか得られない何かが、確実にあるのだ。

(※本書評は、青春と読書2025年5月号から転載したものです)

佐川恭一『学歴狂の詩』刊行特集一覧
【凹沢みなみ 紹介マンガ(3月25日配信)】 「神戸大学以上の学歴の女性」としか結婚しないと決めた東大文一原理主義者

【ナツ・ミート 書評(3月26日配信)】灘中高→4浪で東京都立大のナツ・ミートが『学歴狂の詩』を読み解く

【小川哲 対談・前編(3月29日配信)】「学歴」というフィルターで世界を認識する狂人たち

【おおたとしまさ 書評(3月31日配信)】思春期の子どもたちがいかに洗脳されやすい存在であるか

発売即大重版!

あまりの面白さに一気読み!
受験生も、かつて受験生だった人も、
みんな読むべき異形の青春記。
——森見登美彦さん(京大卒小説家)

最高でした。
第15章で〈非リア王〉遠藤が現役で京大を落ちた時、
思わず「ヨッシャ!」ってなりました。
——小川哲さん(小説家・東大卒)

ものすごくキモくて、ありえないほど懐かしい。
——ベテランちさん(東大医学部YouTuber)

なぜ我々は〈学歴〉に囚われるのか?
京大卒エリートから転落した奇才が放つ、笑いと狂気の学歴ノンフィクション!

書籍の詳細はこちらから

金子玲介氏新刊、5月21日発売!

『死んだ山田と教室』が話題沸騰の金子玲介が贈る、嫌愛短編集。
記憶の中の自分、記憶の中のあなた、答え合わせなんてしなければよかった。

書籍の詳細はこちらから

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新刊紹介

金子玲介

1993年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。2023年、『死んだ山田と教室』で第65回メフィスト賞を受賞しデビュー。24年に刊行された同作はブランチBOOK大賞2024を受賞、2025年本屋大賞第9位。ほかの著書に『死んだ石井の大群』『死んだ木村を上演』がある。四冊目の著書『流星と吐き気』が5月21日刊行予定。

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