2019.1.31
ファッションの潮流は繰り返す?~ノームコアの次に来るもの【MB×佐藤誠二朗トークイベント】
世代を超えて盛り上がるメンズファッション談義
2019年1月27日、東京・下北沢にて開催された、MB×佐藤誠二朗トークイベント「メンズファッションの最大公約数を探る」。
昨年秋に刊行された佐藤さんの『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』刊行を記念して行われた本イベントは、ゲストにMBさんを迎える形で行われた。
「メンズファッションのことを、こんな風に歴史や背景から深く考える人がいるんだ……と佐藤さんの本を読んで思ったんです。コミュニケーションツールのひとつとしての洋服というものもあるけれど、歴史から考えるというのはこれまであまり見たことがなくて……すごくたくさんのカルチャーとかの関連性も書いてあって……いや、男心をくすぐりますよね」
とMBさんが佐藤さんの著作の感想を言えば、
「MBさんといえばロジック。男のおしゃれをここまで論理的にとらえ、しかもそれをコンスタントに発信し、ベストセラーを送り出している。
あの、単純にリスペクトしてます(笑)」
と佐藤さん。
30代半ばのMBさんとアラフィフの佐藤さんは、世代やテイストの違いはあれど、とにかく服が好き、ファッションが好き、という思いは一緒だ。
その後はふたりの当日のコーディネート紹介、ファッションにハマった思い出、好きなブランド……と会話は進み、しばしば会場は笑い声に包まれる。
中学生のころ、兄の影響でアメカジからおしゃれに目覚め、やがてゴルティエやマルジェラといったデザイナー系にどっぷりハマっていったというMBさん。
「僕、いまだにスーツってやっぱりいちばんカッコいいと思うんです」
というMBさんのロジック”ファッションはバランス”という理念は、すでにこの頃から構築され始めていたのかもしれない。
そしてやはり兄の影響で中学生のときにパンクやニューウェーブに魅せられたのがファッションのきっかけとなったという佐藤さんは
「若い頃にハマったものは、自分の芯から離れない」
とも言う。
大人になっていろいろなスタイルを知り、流行と出会ったりしても、多感なころに好きになったものはそうそう簡単には消えないということだ。
「僕は音楽からファッションにハマって、パンクバンドをやりながら、パンクスたちの着てるとんでもない服を無理やりコピーしてたのが始まり。その頃はお金もないから、ひたすらそれっぽく見えるよう、安全靴を履き、Tシャツ破って安全ピンつけて…本家から見たら間違いだらけの恰好(笑)」
と笑う佐藤さんに
「いえいえ、ホントに若い頃なんてお金ないし、いかにその乏しい中でカッコよく見せるか、おしゃれを楽しむか、でした」
と、懐かしむ表情で答えるMBさん。
ようやく終焉を迎えたノームコアの次は……?
話はやがて次のトレンドへと広がる。
「僕、かねてからトレンドは後から振り返ることで系統立てできる、って思ってるんです。
今流行り始めてたり、流行ってる途中のものって、まだそのスタイルに名前もついていなくて、トレンドとして確立していないんですよ。逆の言い方をすれば、そのスタイルに名前が付いた時は、もう終わりが始まっているというか。
だからノームコアなんか、スタイルとしてはっきり言えるからもう終わってる、と思うんです」
「うわ! それ、おもしろい……なるほどです、すごくわかります。実は僕もこの間メルマガで、脱ノームコアについて書いたばかりなんですよ」
ファッションを歴史でとらえる佐藤さんならではの発言に、大きくうなずきながらMBさんは続ける。
「ノームコアの反動ってきてますよね。コレクションを見ていても、柄とかワイドシルエットが目立つし……これってSNSの影響もあると思うんです。
インスタで一枚の写真あげただけで、ポン、と”いいね”をもらうのにはノームコアじゃ厳しくなってきてるでしょう」
「そうですね。
それと、今のこの動きって、かつてのビートジェネレーションやヒッピーが終わりかけて、サイケデリックやグラムロックが出てきたのと同じ潮流を感じるんですよ。ノームコアだってそもそもSNSから出てきたけど、それはその前までのスタイルと比べるとあの超シンプルなスタイルが新鮮だったわけで」
「そうですよね。それでいうと最近のグッチやドリスの柄ってサイケな雰囲気もすごく持ってますし。そうか、その考え方もおもしろいな。結局繰り返すというか……」
と話すふたりの楽しそうなことといったら、このうえない。
自分にとってファッションとは、おしゃれとは
最後に己にとってのおしゃれとは、ファッションとは、という佐藤さんの問いかけに
「オシャレは他人のためにするものだと思ってます」
とMBさんは即答。
「よく、洋服は自己満足というけど、やはり人の目を気にして人から評価してもらうものだと僕は思うんです。
デートに着ていく服なら、デートする相手にどう思われるか。
仕事のプレゼンに着ていくなら、取引先の相手にどう思われるか。
そういったことに気を配ることがすごく大事。
だから僕はよく、他人の目を意識して洋服を決めましょうと言ってるんです」
対して
「僕は帰属意識を表す手段だと思っています。
大人としてTPOなども考えなくてはいけないけれども、その中で自分の好きなブランド、アイテムを組み込んで、ファッションを楽しみながら“自分は何者であるか”を表現することはできるからです」
と佐藤さん。
世代も好みも異なるふたりの”服バカ”が出会い、互いのリスペクトを深め合う……そんな心地いい時間を、参加者ともども共有できたひと時だった。
(よみタイ編集部)