よみタイ

麻布競馬場みたいな小説は誰だって書ける、と思わせる凄さ【アザケイ×山下素童 対談】

突き抜けた暗さがユーモアを生み出す

山下 アザケイさんはめでたく本も出したし、重版もバンバンかかってますよね。今後の麻布競馬場のゴールはどこなんですか?

麻布 わかんないんですよね。僕、子どもの頃から一番苦手だったのが、将来の夢を作文で書くことだったんです。将来の夢とかゴールなんてないから。その時々の旬のニュースからサンプリングして、親や教師の期待する子ども像を文章のなかで演じていました。向井千秋さんが宇宙に行ったら「宇宙飛行士になりたいです」って書いたりしてね(笑)。そんな姑息な子どもが大人になったわけだから、人生のゴールの見つけ方がいまだにわからない。皮肉なもんですよ。ナンバーワンにならなくていい、オンリーワンになれって言われて育ったけど、結局、やりたいことを自分で見つけられないんだから。

山下 本を出して嬉しかったことってなんですか?

麻布 やっぱり自分の本が書店さんに並んでいるのを見る瞬間が最高にときめくんですよ。書店さん、ありがとうって思う。僕、実はこれまで本は電子書籍で買ってたんです。物を持つのがとにかく苦手で。本なんて大学生以来買ってなかった。でも、最近、ちゃんと本屋さんで本を買おうという気持ちになりました。

山下 本を出してから、そういった部分でアザケイさんに変化があったんですね。自分の本はどこの棚に置いてほしいとかありますか?

麻布 今回の本もそうだけど、僕の書くようなものってどこに置かれても収まりがいいんです。日本文学でも、ライトエッセイでも、芸能人ブログ本でも。だから書店ごとに置き方にバラつきがあるのも面白いかもしれない。そもそもTwitter文学のアンソロジーなんて誰が買ってくれるのかイメージわきませんよね。

山下 いま、目の前で僕たちの話を聞いてくれてる方々です(笑)。

麻布 そうか(笑)。でも、今回、書き下ろしで参加されている方もいるじゃないですか。書き下ろしのTwitter文学ってなんだよって思いません(笑)? だけど、こうやって見ると、数行の文章で作られた段落が綺麗に並んで編成されていて、視覚的な部分だけではなく読書体験としても統一性がありますよね。素童くんも書き下ろしだと思うんだけど、Twitter文学についてどんな理解をして、どういう風に書いたんですか? ちなみに僕は素童くんの作品「トベッ! ハヤク! トベヨォッ!」を読んでびっくりした(笑)。内容は伏せますが、恐ろしいものが書かれている……。

山下 僕も完成した本を見て自分だけあまりにも浮いていてびっくりしました(笑)。最初、編集者の方から言われたのは、とにかく140字のブロックを繋いだものを書いてくれってことだけ。だから、まぁ何でもいいんだろうなって思って書きました。

麻布 結果的にいい感じに「何でもいい」ものになりましたよね。

山下 そうだといいんですけど。Twitter文学ってアザケイさんのしか熱心に読んだことがなかったのですが、書き下ろしも含め、割と大枠としては似た雰囲気のものが多いですよね。何か特別なルールがあるわけではないですよね?

麻布 たぶん誰も定義していないんですよ。野良の活動だから。でも、ローションが自分のチノパンに染みを作るTwitter文学は僕、初めて読んだな(笑)。なんでこのことを書こうと思ったんですか?

山下 アザケイさんのTwitter文学って、短い文章の中に長い人生の話を詰め込むじゃないですか。僕も真似したんですけど、うまくいかなくて。

麻布 確かにこの作品、流れてる時間で言えばわずか30分ぐらいしかない。素童くんが「よみタイ」で連載してる「シン・ゴールデン街物語」も刹那の出来事の連続ですよね。あのエッセイは時間軸が多少あっても、一つの短い出来事が起きたら時間が経って、また別の短い出来事に繋がるような、意外と展開の早い不思議なリズムがそこにある。だからきっと素童君は短期決戦型の文章の方が得意なんでしょうね。

山下 そんなちゃんとしたコメントいただけるんですね(笑)。

麻布 素童くんの文章、いつも読んでますから(笑)。

山下 ちょっといま考えていたのですが、僕がTwitter文学を最初にうまく書けなかったのは、なぜかアザケイさんっぽくしちゃったからなんですよね。お題は「140字のブロックを繋いだもの」でしかなかったのに、短い文章の中に長いスパンの人生の話を詰め込んで悲哀な感じを演出する、という存在しないはずのルールに則って書いてしまいました。そんな風にアザケイさんっぽく書きたいと思わせるところが、アザケイさんの文章の魅力なのだと思いました。「麻布競馬場みたいな文章は誰でも書ける」と言われてるのをよく耳にしますが、そう思わせるところがまず凄いし、実際に書いてみると面白くするのが難しいことに気づかされるのも更に凄いと思いました。僕もそれっぽく書いて一応完成はさせたのですが、麻布競馬場の縮小再生産みたいな文章が出来上がっただけだったのでボツにして、改めて「140字のブロックを繋いだもの」というお題に立ち戻って、麻布競馬場っぽくしたいという気持ちを振り払ったうえで自分が書けるものを書きました。アンソロジー本の中で僕の文章が異様に浮いているのはそうだと思うのですが、それは他の人たちのTwitter文学が似通っているから、というのも一つの理由としてあると思います。改めてアンソロジー本で色んな人のTwitter文学を読み比べてみると、アザケイさんの文章って意外とユーモアが強いことに気づかされますね。「港区桃太郎」なんて、声を出して笑いました。

麻布 ありがとうございます。ユーモアはいつも意識してますね。Twitter文学の黎明期に僕、これは出たもの全部読まなきゃと思って一通り読んだんですけど、やっぱりただ暗いだけの話は面白くないんですね。暗くするなら、突き抜けて暗くなければダメだと思いました。今回のアンソロジーに掲載されている自分の作品のうち2本は、「童話」という形式にチャレンジしています。窓際三等兵も同じことをやっているんですが、やはり最後には「童話」の枠組みに行き着くんだなって思いましたね。

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新刊紹介

麻布競馬場

あざぶけいばじょう
1991年生まれ。慶応義塾大学卒業。
著書に『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)、『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)。

Twitter@63cities


(イラスト:岡村優太)

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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