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麻布競馬場みたいな小説は誰だって書ける、と思わせる凄さ【アザケイ×山下素童 対談】

暇潰しをしていたら、いつの間にか本が出た

山下 アザケイさんはそもそも何で麻布競馬場として活動しようと思ったんですか?

麻布 僕は「暇」というのがとにかく苦手なんです。コロナで自粛生活しなきゃいけなかったときも、暇になるのは嫌だからYouTuberをやってたし。その前は時間があれば、図書館に入り浸って片っ端から本を読んだりもしてた。文章を書き始めたのも暇潰しの一環で、noteやTwitterはそのためにアカウント作りました。

山下 なるほど、暇潰ししてたら本が出ちゃったって話ですね(笑)。

麻布 嫌な言い方だな(笑)。まぁでも、そういうことになりますね。素童くんはなんで最初に文章を書き始めたんですか?

山下 僕は風俗ばっかり行ってる人間でして、その体験談をブログにひたすら書いてたんですね。世の中に溢れてる風俗に関する話って、どのお店の女の子がいい悪いとか、風俗は可愛そうな人が働いている場所だとか、そういう特定の見方から語られる話ばかりじゃないですか。でも自分で遊びに行ってみると、そういう話と実際に経験していることに落差があるなって感じてたので、じゃあ自分が経験した風俗のリアルを書いてやろう、と。

麻布 風俗ってなんでみんな語りたがるんですかね。例えばご飯食べに行ってわざわざ食べログ書く人って少ないじゃないですか。でも風俗やホスト、キャバクラの場合、利用してる人の多くが積極的にレビューを書いている印象がある。

山下 風俗で遊んでる人って、風俗の話をできる人が周りにいないんですよ。ご飯の感想は家族や友人にシェアできるけど、風俗の話はできない。だからネットで共有するしかないんですが、そうやって風俗レポを書き始めるとコメントが来る。そこでやりとりしてるうちに風俗客コミュニティができあがって……。

麻布 まさにインターネットの模範的な世界(笑)。

山下 最初はなにか衝動があって書き始める人もいるかもしれないけど、だんだんコミュニティ色が強くなりますね。風俗レポの冒頭の部分で、家族と上手くいってない話とか、仕事で失敗してへこんでしまった話とか書き始めちゃったりして、風俗レポ仲間がそれに励ましのコメントをくれて、だんだん近況報告プラス風俗レポみたくなってくる。最近は風俗客専用のSNSとかもあるんですよ。風俗レポを書いて、みんなで共有して、コメントし合って仲良くなった人たちは一緒に遊びに行って、「一緒に遊びに行きました!」ってノリでまた風俗レポを書く……って、風俗の話、続けます(笑)? 

麻布 いいよ、続けよう(笑)。素童くんもブログ書いてるうちに、それが『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』として書籍化されたわけじゃないですか。業界内から反発があったりはしない?

山下 いや、どこからも反発がなかったんです。

麻布 平和なコミュニティだ(笑)。おめでとう、みたいな感じ?

山下 うん、そうですね。風俗嬢も僕の本を写真に撮って写メ日記に上げてくれたりしました(笑)。

麻布 何それ、いい話過ぎる(笑)。

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新刊紹介

麻布競馬場

あざぶけいばじょう
1991年生まれ。慶応義塾大学卒業。
著書に『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)、『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)。

Twitter@63cities


(イラスト:岡村優太)

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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