よみタイ

肌年齢は何歳? 45歳の美容初心者おじさんが、最新機器「VISIA」で肌診断してきた!【爪切男『午前三時の化粧水』一部試し読み】

「では、お待ちかねの肌年齢なんですが……」

洗顔後は撮影室に移動する。今回使用するのは「VISIA」と呼ばれる最新の撮影機器である。非常に高い分析技術が搭載されており、シミ・シワ・毛穴・キメの状態を正確に知ることができるそうだ。肌の下に隠されたシミまで確認できるというのだから驚きだ。歯科医院でよくやるレントゲン装置に似た機械にちょこんと顎を乗せ、撮影はあっという間に終了。程なくして大きめのディスプレイに私の顔写真が映し出される。おお、これはちょっとした公開処刑だな。両目を閉じて撮影しているので、不謹慎だが自分のデスマスクに見えなくもない。

「ではまずシミから見ていきましょう」とカウンセラーの方が機械を操作すると、写真で確認できるシミの部分にわかりやすい蛍光色でマーキングがされていく。普段はそこまで気にならない部分も、いざチェックを付けられると恥ずかしい。老人シミになりそうな部分が多数見受けられるも、早急にシミ治療が必要な部分は見当たらないとのお言葉。シワに関しても目のまわりのシワぐらいしか問題となる部分はないそうだ。

ただ、皮膚の下に隠されている紫外線によるシミ予備軍の量がえげつないぐらい多かった。ガラガラヘビのようなまだら模様のシミが自分の皮膚の下にこんなにあるなんて。紫外線の恐ろしさをマジマジと見せつけられた気分である。ホラー映画よりも自分の顔写真のほうがより一層ホラーである。

散々な有様ではないかと覚悟していた毛穴に関しても、鼻の周辺をのぞいてたいしたことはないとのこと。
「こうやってお見受けする範囲でも、お客様はかなりお綺麗な肌をしていると思いますよ。 日々のお手入れをちゃんとしているからですね。素晴らしいです」と太鼓判を押してもらった瞬間、不意に涙がこぼれそうになった。顔と首を覆い尽くすほどのひどいニキビに悩まされていた中学、高校時代。もしかしたら治るかも?と期待をするから余計につらくなる。こんな肌ではもう人並みの生活は送れまい。恋や結婚も諦めて、私は一人で孤独に生きていこう。己の未来に絶望することでなんとか日々を過ごしていたあのころの私に言ってやりたい。大人になってから……おじさんになってからだけど、お前は肌が綺麗だねって褒めてもらえるんだよって。肌年齢診断を受けに来てよかった。今まで生きてきてよかった。

「では、お待ちかねの肌年齢なんですが……ジャジャン! 44歳です。おめでとうございます!」と言われて、椅子からズッコケそうになる。なんやねん、散々褒め散らかしてくれたのに年相応なんか〜い!という顔を私はしていたのだろう。表情を読み取ったカウンセラーが「この機械で中高年の男性がマイナス1歳の診断を受けるなんてすごいことなんですよ!」と説明をしてくれる。そうなのか、とても嬉しいのだけど、そういうのは先に言っといて欲しいものなんですよ。そして嬉しい機能として、自分の肌の未来予想図も見ることができる。画面に映し出されたスベスベ肌のお但ちゃん。私はきっとこんなお但ちゃんになってみせる。

今のところは特に処置が必要な部分はないとのことで、何かのコースに勧誘されることはなかった。これから注視しないといけないのはとにかく「保湿」なのだという。一に保湿、二に保湿、三四がなくて五に保湿。毛穴の状態をもっとよくするために、古い角質を除去するピーリングを勧められた。肌の状態を診断するだけではなく、今後のアドバイスまでいただけるなんて、肌年齢診断って素晴らしい。お手軽なアプリもいいけど、やっぱり面と向かったやり取りをした方が身になる。

クリニックの決まりにより診断結果を持ち帰ることができないのだが、 「あなたの肌年齢は44歳」と表示された画面は写真を撮ってもいいらしい。嬉しいのでしばらくはスマホの待ち受けにしておこう。
VISIAによる診断は3千〜5千円ぐらいで受けられる。この値段がリーズナブルなのかどうかは人によるだろうが、私に関しては値段以上の自信と喜びをいただきました。

クリニックを出たところで、診断結果を妻にLINEで報告する。志望校に合格したことを親に報告する受験生のような晴れやかな気持ちである。

「おめでとう、でもここからがスタートだね、保湿頑張りましょう」と少したるんだ私の気持ちを引き締める返事が妻から届く。どの機械よりも妻の判定が一番厳しくて一番優しくて一番嬉しい。

というわけで、自信をもってここに記す。私の肌年齢は年相応です!

『午前三時の化粧水』は絶賛発売中!

40歳を過ぎた体重125キロの作家が、ひょんなことから「美容」と「健康」生活に目覚めたら……。
肌はもちもちプルンプルン、30キロもやせ(リバウンドも)、そして、最後にはなんと結婚!?

ドラマ化された『クラスメイトの女子、全員好きでした』に続く、やさしくて、おもしろくて、ためになって、ときに泣ける、前代未聞の「おじさん美容エッセイ」全38篇。

“美容の師”として尊敬する女優・タレントMEGUMIさんとの特別対談も収録。

書籍の購入はこちらから!

爪切男『午前三時の化粧水』刊行特集一覧

【爪切男 刊行記念インタビュー前編(3月26日配信)】 「音楽や映画のように掘っていく楽しさも美容にはあるんです」

【爪切男 刊行記念インタビュー後編(3月27日配信)】「美容に興味を持った生活をしていなかったら結婚には踏み切っていない」。

【『午前三時の化粧水』試し読み特集 その1(3月30日配信)】深夜のドンキでTENGAより買うことが恥ずかしかった1本の化粧水が、私の人生を劇的に変えるとは!

【『午前三時の化粧水』試し読み特集 その2(4月1日配信)】カップ麺中毒の男、自炊はじめました。今日が私たちの「卵焼き記念日」です

【『午前三時の化粧水』試し読み特集 その3(4月3日配信)】カップ麺中毒の男、自炊はじめました。今日が私たちの「卵焼き記念日」です

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

週間ランキング 今読まれているホットな記事

  1. 伊藤弘了「感想迷子のための映画入門」

    岩井俊二『Love Letter』のヒロインが一人二役である理由 ――あるいは「そっくり」であることの甘美な残酷さ

  2. 「神戸大学以上の学歴の女性」としか結婚しないと決めた東大文一原理主義者【凹沢みなみ×『学歴狂の詩』紹介マンガ】

  3. 「学歴」というフィルターで世界を認識する狂人たち【小川哲×佐川恭一 学歴対談・前編】

  4. 新刊 : 佐川恭一
    笑いと狂気の学歴ノンフィクション

    学歴狂の詩

  5. 稲田俊輔「西の味、東の味。」

    武田信玄の野望を叶えた信州味噌

  6. 佐川恭一「学歴狂の詩」

    「田舎の神童」の作り方【学歴狂の詩 無料公開中!】

  7. 灘中高→4浪で東京都立大のナツ・ミートが『学歴狂の詩』を読み解く

  8. 最強シェルパ、ミンマGに聞く山との出合い、世界初K2冬季登頂【石川直樹 特別対談/前編】

  9. 佐川恭一「学歴狂の詩」

    「阪大みたいなもん、俺は三位で受かるっちゅうことや!」マウント気質が強い〈非リア王〉遠藤【学歴狂の詩 試し読み】

  10. 小説家デビューは「受験勉強」で攻略できるのか?【小川哲×佐川恭一 学歴対談・後編】

  1. 進藤やす子「イラストレーター、准教授になる」

    ゼミ1期生、感動の卒業式! 泣かなかった理由と贈る言葉【イラストレーター、准教授になる 第18回】

  2. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    女性用風俗に通う女性たちの心のうちを描くコミック新連載【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第1話前編】

  3. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    同僚の先生に嫌われるのが怖かった教頭の決意【白兎先生は働かない 第14話】

  4. 進藤やす子「イラストレーター、准教授になる」

    ダブルワーク生活はや2年。正直「ムリ…」と落ち込む夜もあるけれど。【イラストレーター、准教授になる 第17回】

  5. 野原広子「もう一度、君の声が聞けたなら」

    妻が逝った。オレ、もう笑えないかもしれない 第1話 さよなら、タマちゃん

  6. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    同世代の男にはもう懲りたと思っていたけど、新人セラピストの彼に出会って…【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第1話後編】

  7. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    「どうして管理職になってしまったんだろう」教頭先生の苦悩【白兎先生は働かない 第13話】

  8. 野原広子「さいごの恋」

    ロマンス詐欺?教え子に見られて恥ずかしい? 彼への思いの揺らぎの正体は… 第13話 その人、大丈夫?

  9. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    「教師が足りない…」苦しい学校現場を運営する教頭先生【白兎先生は働かない 第12話】

  10. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    普段は厳しい女性上司を演じているけど……SM専門女性用風俗で見つけた「本当の私」【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第4話】