2020.12.12
「夫婦のバイブルです」 直木賞作家・佐藤賢一さんが読む『妻が口をきいてくれません』
すれ違う夫婦の姿をリアルに描き、SNSなどでも賛否両論渦巻く大反響を呼びました(第1話はこちら)。
書き下ろしを加えて11月26日に発売された単行本は、たちまち大増刷が決定!
そんな、今もっとも注目を集める夫婦コミックを、直木賞受賞作『王妃の離婚』などで知られ、このほど『ナポレオン』で司馬遼太郎賞を受賞した作家の佐藤賢一さんに読んでいただきました。
多忙な作家であり、家庭では夫であり、二子の父でもある佐藤さんの感想は……。
(構成/「よみタイ」編集部)
もう夫婦のバイブルです
タイトルに、いきなりドキッとさせられました。
「妻が口をきいてくれません」
そう言葉が並んだ瞬間から、心にイヤな重さが忍び入るのです。妻が口をきいてくれない。何を聞いても、返事がない。ようやくラインが来たかと思えば、とってつけたような敬語で、ひたすらに事務連絡。よみがえる記憶の数々に、にわかに息が苦しくなって……。
恐らくは私だけではありません。既婚男性なら、ほぼ百パーセント覚えがあるはずです。だから、もう、作中の誠が他人とは思われない。
いや、それは夫が悪いんです。思いやりがない。無理解にも程がある。いつも自分のことばっかり。エゴイスト。サイコパス。このB型。仰る通りなんですが、でもね。夫だって楽じゃないんです。仕事、つらいんです。というのも、子供なんか生まれると、がんばらなきゃと無駄に張りきるわけです。家なんかも建てて、ローンの返済が始まると、俺が倒れたらお終いだなんて、妙な責任も感じてしまう。だから、逃げない、逃げられない。