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アスファルトに緑のコケ!? 豪大陸521キロのアドベンチャーマラソン、最難関132キロで幻覚を見た!

「アドベンチャーマラソン」を知っていますか?
アドベンチャーマラソンとは、砂漠、荒野、山岳、氷雪、ジャングル……世界の極地を舞台にした“世界でもっとも過酷”なレース。ランナーは寝袋や食料などを背負いながら、数日間かけ数百キロの道程を走り、タイムを競います。

そんな過酷なレースに、日本唯一のプロアドベンチャーランナーとして挑み続けているのが、北田雄夫さん。10月に発売された『地球のはしからはしまで走って考えたこと』は、北田さんが日本人として初めて世界7大陸を走破するまでや、その後、4大極地最高峰レースに挑戦する様子をまとめた本人初の著書。

今回のその本の中から、著者にとって思い入れの強いレースだったという、日本人初参加の2015年、オーストラリアの荒野での「The Track(ザ・トラック)」への挑戦(単行本の3章)を全3回に分けてお届けします。

1回目の「準備編」、2回目の「レース前半戦」に続き、いよいよ今回は「レース後半戦」。全521キロ9日間にわたる戦い、無事にゴールできるのか!

※書籍から一部抜粋・再編集しています。
(構成/よみタイ編集部)
オーストラリアの荒野を走り続ける。後半、ついに体は限界に近づいてきた……。
オーストラリアの荒野を走り続ける。後半、ついに体は限界に近づいてきた……。

最終日の最難関132キロで幻覚を見る

 不安は的中した。

 6日目の58キロを終え、7日目は64キロ。日中30℃を超える気温と、南半球特有の強い日差し。さらに心を乱すのが、顔や体にまとわりつく数十匹のハエ。疲労が溜まってきた体は暑さでバテて、走りにも集中できないようになってきていた。

このころになると、もうまわりの景色なんてほとんど見ることができなくなっていた。ただ足元だけを見ていた。何かを考えることすら疲れる。ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。無心でただ風の音だけを聞き、呼吸するかのように無意識に、走るというより両足で大地にリズムを刻むだけだ。2、3日目から軽い筋肉痛だった太ももは、筋肉がバネを失って千切れたような痛みとなり、まともに力が入らなくなった。消耗した体と心でリズムを刻み、9時間14分、なんとかゴールした……。

 ほっとはしたが、体が限界に近づいていたこともわかっていた。後半に入ってからの2日間で計122キロ。長距離ステージで大きなダメージを受けた。夜になっても足の炎症熱は冷めることなく、体は燃えるように熱く、だるくて眠ることができない。夜中を過ぎ、ようやく休むことができたが、数時間後に目が覚めた時、これまでにない憂鬱ゆううつさが僕を襲っていた。起きることが嫌で嫌でたまらない。340キロを走り、疲れ切っていた僕は、もう一歩も走りたくなかったのだ。

 そんな時、これまで共に戦い続けてきたテントメイトのハミに励まされた。

「タカオ。今日1日、がんばろう!」

 見れば彼のかかとは皮が破けて血だらけだ。彼ももう走ることもままならず、気持ちだけで乗り切っていたのだ。そうだ! ここまで来たんだ! ここで負けたらダメだ、がんばろう! 彼のおかげで瞬時にそう思い直すことができ、スタートを切った。

 その気持ちに天も味方をしてくれたのか。8日目はこのレース唯一の曇り空となり、風も吹いていた。おかげで気持ちも軽くなり、世界中から集まったランナーたちと走れることにも喜びを感じることができた。この日の49キロはあっという間に過ぎ、ついに最終ステージを迎えることとなった。

 最終日となる9日目。ラストは132キロだ。この日ですべてが終わり、すべてが決まる。前日までの総合タイムで僕はなんと目標以上の8位につけていた。限られたスタッフでチェックポイントや緊急時の運営ができるよう、前日までの順位でグループを分けて、遅いグループから数時間差でスタートする、ウエーブスタートとなった。僕は第3グループの8時スタート。体はボロボロだが、もうやるだけだ。

 朝の冷たい風で体が震える中、スタートした。132キロ。東京〜箱根間を走る箱根駅伝の往路は5人で107.5キロだ。それよりも長い道のりに向けて、1キロ7〜8分のゆったりしたペースで進む。30キロを過ぎると先に出発していた選手たちにも追いつき、40キロでハミにも追いついた。声をかけると明らかにエネルギー不足のようだった。僕は持っていたエナジーゼリーとドライフルーツを渡した。規則上はペナルティだが、先述のように一緒に戦う仲間の危険時には暗黙の了解とされている行為だ。なんとか彼にも完走してほしい。心からそう思った。その後も選手とすれ違うたび、大きなきずなを感じパワーをもらった。

 50キロが過ぎ、60キロが過ぎ、中間地点となる66キロの「チェックポイント4」には約10時間で到着した。そこで到着を逆算し1時間前に走りながら仕込んでいた、水で作れる赤飯を食べた。ひと粒ひと粒、みしめる。うまい。米のありがたみが心にしみてくる。空腹は満たされた。だが、ひどく疲れていた足がそれで回復することはない。

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新刊紹介

北田雄夫

きただ・たかお
1984年生まれ、大阪府堺市出身。中学から陸上を始め、近畿大学3年時に4×400メートルリレーで日本選手権3位。
就職後は一度、競技から離れるも「自分の可能性に挑戦したい!」と再び競技を始める。
2014年、30歳からアドベンチャーマラソンに参戦。
17年、日本人として初めて「世界7大陸アドベンチャーマラソン走破」を達成。
現在は「世界4大極地の最高峰レース走破」にチャレンジ中。

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