2020.11.12
オーストラリアの荒野521キロを走り抜く! 収入も語学力もない男が「地球上もっとも過酷なレース」に挑んだ理由
次は遠征の手配だ。集合場所となるアリススプリングスという街を初めて聞いた僕は一から調べることになる。アクセス方法、地域の治安、滞在すべきエリア、そんなことを細かく調べてから航空券(約21万円)とレース前に滞在するホテル(1泊約7000円)を予約した。ひと苦労だった。
そしてアイテムの準備にかかる。前回までのレースと概ね同じ基準だったので、経験を活かし改善をした。食料は1日3000キロカロリーを持参したが結局食べきれなかったので、2500キロカロリーまで減らす。これで2キロ近く軽量化できた。ライトは小型化し50グラム減、ミラーは19グラムから8グラムに。また食べるものが少なく便もほとんどでないこともわかったので、トイレットペーパーも48グラムから10グラムにした。その他、いろいろ見直し、合計で7・2キロ(水分を含め8・5キロ)、初戦の「ゴビ・マーチ」に比べて2・5キロ以上も軽量化することができた。結果的に、改善した内容のすべてが正解ではなかったが、これは完走確率やタイムに大きく影響する進歩だ。
ただ、今回は大会側からお湯が提供されない。選手自らが火をおこし、湯を沸かす必要がある。そのため固形燃料や小型調理器具などを新たに持参する。装備を集めるコツがわかってきたので、これは難なく揃えることができた。問題はメディカルキットだ。
定められたアイテムは15種類あるのだが、日本では見かけない、ヨーロッパで売られている商品名が記載されているからだ。そのためまずその商品は何なのか、どんな用途で、どんな成分なのかを調べる。薬なら主要成分を割り出し、類似品を日本製品で探す。市販品にない場合は、医師に説明して処方せんをだしてもらいなんとか揃えた。そうして準備はできたものの、類似品で規定をクリアできるのか、ペナルティを課せられないか、出場できないなんてことはないか、などとずっと不安を持ち続けることとなった。
だが一番の不安はそこではない。日本人が僕ひとりなのだ。「ゴビ・マーチ」では9人、「アタカマ・クロッシング」では7人の日本人選手がいたので、言語トラブルや孤独を感じることはなかった。
英語もほとんど話せないのに、コミュニケーションがとれるのか。もし自分だけが会話の輪に入れない場合、10日間以上を孤立して過ごすことになる。ただでさえ500キロ超えという大きな挑戦なのに会話ができないことは精神的にもかなり追い込まれる。実際に過去のレースでも、キャンプ地に着けば〝みんながいる〞ことが、厳しいレースでの心の拠り所となっていた。人と会話できるということは、精神を安定させる上でもとても大切なことだ。それを考えると、心臓バクバク。現地に行くこと自体が怖くてたまらなくなった。自ら望んだ道なのに、ほんと、僕はどこまでビビりなんだ!