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寿木けい『土を編む日々』スピンオフエッセイ&レシピ〜タイマグラばあちゃんのポテトサラダ

 ある日ばあちゃんから「マヨネーズっつーのは、うんめぇもんだねぇ。今度買ってきて」と頼まれ、奥畑さんが買いに行ったことがあったそうです。
 山代さんによると、おばあちゃんはどうやら法事のごちそうでマカロニサラダを食べたのではないかとのこと。もともとおばあちゃんが使う調味料は、自家製の味噌、塩、砂糖、醤油、酢だけだったのですから、そこへマヨネーズが加わるなんて一大事。
 早速買ってきて届けると、ばあちゃんは山代さんに「何にかけたら良かべ」と聞いてきたそうなんです。ばあちゃんは山ほどじゃがいもを作っていましたから、「ポテトサラダができる」と伝えると、そこから、ばあちゃんの研究がはじまります。キュウリの塩もみが加わり、ミカンの缶詰が入ってみたり……テレビや知り合いから情報を集めては、実践していきました。
 ある日、せん切りのみょうががたっぷり入った美味しいポテトサラダが登場。誰かに聞いたのかと思ったら「オラの発明だ」と、誇らしげなばあちゃん。
 その発明に、もともと山代さんが作っていた手作りのマヨネーズが加わり、フィールドノートの夏の食卓の定番になったのでした。

 山代さんとマサヨばあちゃんとの心温まるエピソードを私も分けてもらったことに、とてもうれしくなります。レシピを考えて人に伝えることが私の仕事であって、誰かの大事なレシピを手渡されるという機会は、じつはあまりないんです。

 このマヨネーズのおもしろいところは、これまで水にさらしてからよく水気をきって(このひと手間が面倒なんですよね)ポテトサラダに加えていたたまねぎを、マヨネーズ側に入れてしまったアイディア。水っぽくなるのを防げますし、にんにくの香りとあいまって、深い味わいになります。

 思い返せば、フィールドノート以外にもたくさんの宿、それも、個人の家に招き入れられて暮らすような旅ばかり、私は選んできました。
 今、移住先である山梨の家も、一部をゲストルームにする予定でリノベーションを進めています。
 奥畑さんや山代さんのように、五感を磨きながら生活をするということは、とてもクリエイティブな生き方だと思います。
 そこへ客人を招き入れるということは、真摯に暮らすことがそのまま「おもてなし」になり、世界にひとつしかないホスピタリティへとつながっていきます。出会った人々から影響を受け、自分も影響を与える存在になっていく。大切な人の記憶に自分が残り、出会いの記憶を自分も大切に抱えていく。そういう暮らし方こそ、私が求めていたものでした。
 奥畑さんも、山代さんも、そして子どもたちも、エンドユーザーに甘んじることをはっきり拒んでいた。その姿に、私はずっと憧れてきたのです。
 フィールドノートに出会ったときにはすでに、こうなる道へと歩き出していたのかもしれません。自分が求めているものに気が付くのに11年を要したともいえるし、11年前の私には感じ取れなかったものが、ようやく見えるようになったのだとも思います。

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新刊紹介

寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現時点で12万人以上。現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。
著書にロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』『泣いてちゃごはんに遅れるよ』、版を重ねている文庫版『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』(河出書房新社)があり、いずれも話題となっている。

寿木けい公式サイト
https://www.keisuzuki.info/

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