2021.11.3
若手編集者が語る逢坂剛さんのここがすごい!――『ご機嫌剛爺』刊行特別企画
逢坂剛さんのライフヒストリーや、そのご機嫌な生き方のエッセンスを紹介する本書を、逢坂さんの小説誌での新旧担当編集者はどのように読んだのか――今回は特別企画として、若手編集者2人による座談会を行いました。
担当編集者にとって逢坂さんはどのような存在なのでしょうか?
(構成/よみタイ編集部)
T(写真左):現在、小説すばる編集部で逢坂剛さんを担当中。Z世代の新卒2年目。
I(写真右):かつて小説すばる編集部で逢坂剛さんを担当していた。ギリ昭(ギリギリ昭和生まれ)のゆとり世代。連載担当作に〈百舌シリーズ〉の『墓標なき街』、『百舌落とし』。
神保町グルメは全部逢坂さんが教えてくれた
T:僕は入社2年目で、昨年の秋に逢坂さんの担当を引き継いだのですが、『ご機嫌剛爺』の中には、逢坂さんの知らなかった部分がたくさん書かれていて本当に面白かったです。
I:自分は2013年から2020年まで7年間逢坂さんの担当をして、話をする機会は多かったけど、自分も知らないエピソードばかりだったよ。Tは最近、逢坂さんと会ったりしてる?
T:コロナの影響もあって直接お目にかかる機会は多くないですが、それでも時々、神保町でランチやお茶をご一緒しています。本の中に、逢坂さんが小学生の頃から神保町に来ていて、博報堂時代の職場も神保町、現在の仕事場も神保町――という逢坂さんの「ふるさと」として神保町が語られていますが、僕も逢坂さんから神保町の美味しいお店や喫茶店をいろいろと教えてもらっています。
I:わかる! 逢坂さんとのランチで、神保町のグルメを知るところあるよね。それで別の若手作家をそのお店に連れていく(笑)。自分は新人の時に逢坂さんと一緒に『なかや蒲焼店』に行き、地方から上京して初めてウナギを食べたこともあって、美味しすぎて本当に感動した。
T:『なかや』のウナギめちゃくちゃ美味しいですよね。美味しいんですけど、逢坂さんの鰻重を食べるスピードの速さに驚いた記憶があります(笑)。健啖家ですよね。この前は『ひげ勘』でお刺身のランチをご一緒しました。
I:『ひげ勘』『神房』とかはけっこうご一緒するよね。時々、神保町から少し離れて神田あたりにトンカツを食べに行くこともあったり、逢坂さんのおかげで美味しいお店をたくさん知れた気がする
T:僕の場合は、逢坂さんが毎日のように神保町の古書店巡りをされていることに影響を受けて、古書店に興味を持って通うようになりました。
I:そうなんだ。ベストセラー〈百舌シリーズ〉も、逢坂さんが行きつけの古書店で「公安警察関係の資料」に出会ったことがきっかけだったって、この本に書かれてたね。
サラリーマン生活を”楽しむ”こと
T:逢坂さんの博報堂での会社員時代のお話もすごく面白く読みました。逢坂さんって17年間も兼業作家をしていたのですね。知りませんでした。
I:PRマンとして忙しく働きながらも、その合間にスペイン語を習得して、2週間のスペイン旅行をしたエピソードとか、すごいよね。スペイン語以外にも、社会人野球でMVPを獲ったり、ギターを弾いたり、趣味を本当に大切にしていたんだなと。今でも野球とソフトボールは現役でプレーしているし。
T:更に仕事をしながら小説も執筆して、新人賞を獲ってデビューしたんですもんね。同じサラリーマンの立場としても、仕事以外の様々なものに興味を持ち続ける姿勢は見習わねばと思いました。
I:自分が素敵だなと思ったのは、逢坂さんの「どんな仕事でも面白がる」というスタンス。会社員時代に重要度の高い仕事からそうではない仕事まで、多種多様な仕事をされていたようだけど、それらについて、
始める前から、「この仕事はつまらない」と決め込むのは、早すぎます。何ごとも、やってみなければ分からないもの。突き詰めれば、世の中に「役に立たない仕事」なんて、ないんです。わたしはその点、どんな仕事も面白がれるという、得な性格だったと思います。
と書いていらっしゃる。例えば、マスコミに送るニュースレターを折り畳んで封筒に入れて、糊で封をする単純作業を、逢坂さんは若いスタッフと一緒にやっていた。一見つまらない仕事に見えるけど、「いかに無駄なく、美しく折り畳み、すばやく封入できるか?」を追求し、どんどん上手くなっていく過程を楽しむ。些細なことだけど、逢坂さんの人柄を表すエピソードだと思った。
T:逢坂さんっていつお会いしても、本当にご機嫌で楽しそうなんですよね。僕みたいな新人編集者であっても、毎回面白い話題を振ってくださったり、僕自身の興味関心のある分野について熱心に話を聞いてくださったり、すごくありがたいです。