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寿木けい『土を編む日々』特別番外編〜キャンピングカーの旅と料理

 2020年の春は山梨と長野方面へ……と計画していた矢先に、新型コロナウイルスがやってきました。しかし、この一年半の間にいろんなことがありまして、なんと、今度は家族ごとそっちのほうに引っ越す(移住)ことになったのですから、人生というのは本当にわからないものです。
 私は仕事用のデスクの前に、もう何年も、世界地図を貼っています。訪れた土地にはピンを刺してありますし、これから行きたい場所を考えながら、仕事の合間に眺めたりもします。
 旅をしているように暮らしたい。暮らすように旅をしたい。こんなふうな憧れをずっと持ってきましたから、ついに、暮らしと旅が互いに引き寄せあい、移住という形に結びついたのかもしれません。

 先日、引越しのごあいさつに近所のお宅を回りました。見渡すかぎりの葡萄畑の間の、細い道を縫うようにして、スープの冷めない距離に民家が点在しているのどかな土地です。
 みなさん、歓迎のしるしにと、ご自分で育てた食材をたくさん持たせてくださいました。つい、東京のスーパーでの価格に換算してしまって、嬉しいような、恐縮するような。家族みんなで両手に袋をたくさんぶら下げて、昔は馬車道だったという裏道をのんびり歩いて帰りました。

『土を編む日々』には、東京で子どもを育てながら働く生活者が、料理と精一杯向き合う姿を書きました。時間、特に、大都市の時の流れは速く、簡単に過ぎ去ってしまいます。それを堰き止めるのは、四季の恵みです。恵みに感謝して味わう間だけは、時間を手元に止めておくことができます。
 手を伸ばせば実りがすぐそこにあるこの土地で、自分の料理がどんなふうに変化していくのか、今から楽しみにしています。 

『土を編む日々』好評発売中!

寿木けいさんの季節をめぐるエッセイと春夏秋冬の野菜料理レシピを1冊にまとめた書籍『土を編む日々』が、発売されました!
寿木けいさんの書き下ろしや、カメラマン・砺波周平さんによる料理写真もたっぷりと掲載。
端正な装丁は「白い立体」さんによるものです。
エッセイの世界に浸ったり、雰囲気のある写真をじっくりと堪能したり、レシピを参考に料理を楽しんだり……。
さまざまな楽しみ方ができる1冊となっています。
ぜひ、お手元にどうぞ!

書籍の詳細はこちらから

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新刊紹介

寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現時点で12万人以上。現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。
著書にロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』『泣いてちゃごはんに遅れるよ』、版を重ねている文庫版『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』(河出書房新社)があり、いずれも話題となっている。

寿木けい公式サイト
https://www.keisuzuki.info/

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