2021.10.24
寿木けい『土を編む日々』特別番外編〜キャンピングカーの旅と料理
「よみタイ」の大人気連載に書き下ろしを加え、季節をめぐるエッセイと32の野菜レシピをまとめた1冊です。
今回はこの発売を記念したスペシャル企画。
本の企画段階から話題にのぼりながらも、構成の都合上惜しくも収録できなかった「キャンプご飯」のエピソードを、特別番外編としてお届けします。
寿木さん書き下ろしのエッセイを、ご本人撮影の写真とともにお楽しみください。
キャンピングカーの旅と料理
20代の頃から、休暇のたびにひとりで旅をしてきました。国内では、岩手のタイマグラや白神山地、佐渡島へ。海外はキューバ、フランス、ギリシャ、中国……東京不在の日数を数えあげたらキリがありません。
結婚してからも旅好きは変わらず、日帰りのドライブから、マルタやドバイといった遠い国まで、夫といろんなところに出かけました。よく働いて、ぱあっと旅に出る。旅は気持ちを駆り立てるものでした。
事情が変わったのは、子どもが生まれてから。まず、交通機関での移動がストレスになりました。ぐずって周囲に迷惑をかけやしないか、常に気を張っていなくてはなりません。ホテルやレストランは、未就学児は利用不可としているところもありますし、かといって、子どもを主役にしたような観光地には興味が持てず、不自由に感じられることが増えました。
家で暮らしているように、くつろいだ姿のまま旅に出られたらいいのに。そう考えていたときに、車好きな夫からの提案に飛び付いたのが、キャンピングカーの旅でした。
初めてキャンピングカーに乗ったのは、2018年の春。向源寺(滋賀県長浜市)の国宝・十一面観音像を見たいという私の希望で、東京の自宅から浜名湖、名古屋、奈良を経由して、琵琶湖の北へ向かう旅に出ました。
当時下の子はまだ三歳でしたから、どうなることかと不安もありましたが、大人が何人も足を伸ばせるスペースで、折り紙をしたり歌をうたって遊んでいると、あっという間に目的地に着いてしまいました。揺れが子守唄代わりになるのか、夜中に車を走らせれば、子どもたちはぐっすり眠ってくれました。
脱炭素社会へと急がなくてはならない今、二酸化炭素を排出し続ける旅への罪悪感はあります。しかし、私はこの旅をきっかけにして、キャンピングカーの魅力と恩恵に夢中になったのです。
翌2019年の春、今度は北へ。中禅寺湖から喜多方、猪苗代湖、そして、益子を目指すルートを選びました。この旅のことは、『土を編む日々』に書いています。
持ち物は「道の駅」を記したマップと時計、それから、普段使っている調理器具や調味料を少し。お風呂は立ち寄り温泉を使いますし、洗濯はコインランドリーで一時間で済みます。