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不倫どころか二股三股も当たり前!? 中世の恋は大胆でおおらかでした〜額田王vs.和泉式部

 和泉式部いずみしきぶもまた、二人の皇子に愛された人です。この人の歌が、僕は非常に好きなんですよ。
 暗きより暗き道にぞ入りぬべき遥かに照らせ山の端の月
 この叙情のあり方はただごとじゃないな、と思う。
 和泉式部は国司、今でいえば県知事のお嬢さんとして生まれる。最初の夫は橘道貞たちばなのみちさだ。この人も国司ですから、家柄のバランスのとれた夫婦でした。二人の間には、女の子が生まれ、後に小式部内侍こしきぶのないし、ちっちゃい式部と呼ばれるようになります。この人も非常に才能豊かな歌人でした。
 橘道貞が和泉守いずみのかみ、今ならば大阪府知事といった官職について任地に下向するときに、和泉式部もついていく。彼女が「和泉式部」と名乗ったのは、元の夫が和泉守だから和泉。式部とは、おそらくお父さんが以前、式部省でなにか官職を持っていたということで、このふたつをくっつけて「和泉式部」となった。そういう話になっているようです。
 当時の国司の任期は四年。しかし、任期を終えて京都に帰ってくるころには、どうもこの二人はうまくいかなくなっていたらしく、別居していた。
 そこにあらわれたのが、冷泉れいぜい天皇の第三皇子である為尊親王ためたかしんのうです。この親王が和泉式部に入れあげて、二人は男女の関係になってしまった。県知事の娘さんと皇族。現代ならばどうでしょうか。当時この恋は「身分違いの恋」ということで、スキャンダルになりました。和泉式部のお父さんが「あまりにもよろしくない」と、娘を勘当したという話もあります。男女の仲については極めてユルユルというか、どんなことでもウエルカム、全然オーケーだったはずの平安時代でも、二人の関係は身分違いとして非難された。この点が面白いと思います。
 ただし為尊親王は、わりと若くして亡くなってしまう。そうしたら和泉式部はまた、為尊親王と同母兄弟の敦道親王あつみちしんのうと恋愛関係になった。この敦道親王との間には男の子が一人生まれているのですが、こちらはお坊さんになって、子孫は残さないという体裁になったみたいですね。

親王たちを骨抜きにして、手玉に取った和泉式部。©まんきつ/集英社
親王たちを骨抜きにして、手玉に取った和泉式部。©まんきつ/集英社

 親王二人に愛されたということで、和泉式部はずいぶんと恋愛上手であるといわれます。といっても、ニュアンス的にはあまりよくなくて「浮かれ女」と呼ばれた。藤原道長による和泉式部評として“浮ついた女みたいな”、そんな言葉が残っています。今風にいうと「ビッチ」ということになるのでしょうか。だけどそういいながら、道長は自分のいちばん大事な娘、一条いちじょう天皇のお后の彰子に仕える女官として、和泉式部をスカウトしています。女官の同僚には紫式部もいましたから「競演」ですね。
 和泉式部は紫式部をどう見ていたのかな。妄想タイプの紫式部に対して、みずからが恋愛上手だった和泉式部は「あなた、創作は上手だけど、リアルの恋の道は全然オクテよね」とか思っていたかもしれませんね。

 和泉式部はその後、藤原道長の側近の一人、藤原保昌やすまさという、貴族なのに武芸の達人だった人と結婚するのですが、二人の間に子どもはいませんでした。だから血縁というと、最初の結婚のときに生まれた小式部内侍と、お坊さんになった、親王の息子さんしかいなかった。お母さんとしては、特に娘を頼りにもし、かわいがっていた。小式部内侍はお母さんに先立って亡くなってしまうのですが、そのころに和泉式部が詠んだ歌に非常に胸を打つものが多い。やっぱり、和泉式部は気持ちの豊かな人だったんだろうね。

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本郷和人

本郷和人(ほんごう・かずと)
1960年東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。
東京大学・同大学院にて石井進氏、五味文彦氏に師事し、日本中世史を学ぶ。著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』『承久の乱 日本史のターニングポイント』『戦いの日本史』『世渡りの日本史 苛烈なビジネスシーンでこそ役立つ「生き残り」戦略』、監修に『やばい日本史』など多数。
ドラマや漫画、アニメの時代考証にも携わり、識者としてはもちろん、日本史をわかりやすくおもしろく解説してくれる第一人者としても、各方面から引っ張りだこの存在。

まんきつ

1975年埼玉県生まれ。漫画家。
2015年に初の単行本『アル中ワンダーランド』を刊行。以降、『まんしゅう家の憂鬱』『湯遊ワンダーランド』など、独特の視点と描写によるコミックエッセイ、ルポ漫画が評判となる。2019年2月にペンネームを「まんしゅうきつこ」から「まんきつ」に改名。

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