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「男らしさ」幻想から抜け出そう 酒を飲まずに楽しく生きる方法

何者でもない「無名」な存在であること

斉藤:自助グループのAAには「12の伝統」と呼ばれるものがあって、指導者を置かず、あらゆる団体から独立した立場を貫きます。外部からの献金も受けないし、広報もしない。長い歴史でグループができたりつぶれたりを繰り返す中で、酒をやめたいという願いを持っている人たちが、ひとつのコミュニティとして生き残るために自然に培ってきた伝統なんですよね。
 その中で重要なのは「アノニミティ」という考え方です。要は無名であること。社会ではいろいろな肩書きがありますが、このグループでは肩書きや住んでいるところ、年収、年齢も性別も関係なく、酒をやめられなくなって、どうにもならなくなってしまった一人のアルコール依存症者として受け入れられます。
 何者でもないということが大事なので、そこでは、本名を名乗る人もいますが、アノニマスネームといって自分のことをニックネームで呼びます。無名であるということは、もしかしたら男性にとってはすごく大事なのかなと思いました。

田中:そうですね。そんな気がします。

イメージ画像:写真AC
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斉藤:男、特にサラリーマンは、名刺を出して、相手が自分より上か下か、年上か年下かという序列を条件反射で考えます。でも、自助グループでは関係なくて、みんな依存症。何年やめていると知っていても、別にそれを自慢することもありません。古い人たちは今日新しく来た人を見て、「自分も昔こうだった。だから、長く断酒していても今日一日が重要だ」と思う。新しい人は、先ゆく仲間をみて、断酒できるとちゃんとまっすぐな姿勢で歩けるし、人と目を見て話せるし、目線や歩き方、しゃべり方が全然違う、と回復のイメージが持てる。かつ、ここでは誰もが同じ依存症者だから威張らなくてもいいし、肩肘張らなくていい。自助グループにとって、無名であること、アノニミティを守り続けてきたことはすごく大きいと思います。

田中:でも、それはもう依存症になってしまった人たちの回復だから、その手前でなんとかできないですかね。メンズリブは、やっぱり男という共通項だけで集まっても難しかった。
 無名的なつながりというと、やはり趣味の縁みたいなものですかね。今の時代だったら、ネットで気軽につながれますし。「オタク」の語源って、オタク同士が本名を名乗らないで、「おたくはどこから来たんですか」「おたくは……」って呼び合っていたという説がありますが、それこそ「無名」ですよね。

斉藤:そうですね。まさに、オタクは一種のアノニミティですね。

田中:趣味の縁は全人格的に付き合う必要がないから、今のように、趣味も多様化して一致団結することが難しい時代に、オタク的な生き方は救いかもしれない。

斉藤:あるジャンルを愛好する者同士が、肩書きとか年齢とか性別を明かさずに、ただただ好きなものについて語り合える、というSNSの場などは、うまく機能すれば、「男らしさの呪い」から解放される場となりえますね。

細くゆるくつながる

田中:僕は、運動は苦手なんですけど、野球をやっていました。チームを組まなくても、適当に人が集まったら試合ができる仕組みがあればいいのになと思うんです。グラウンドを開放していて、サッカーだったら22人集まれば、じゃあ試合しようとなり、18人いれば、なんとなく野球やって、特に名前を名乗ることもなく、終わったら、「じゃあ、お疲れさまでした」と言って帰っていく、みたいなことができたらいいと思います。

斉藤:そういうゆるい感じ、いいですね。

田中:今だったらオンラインで野球ゲームとかサッカーゲームとか将棋とかできるのかもしれないですけど、体を動かしたほうが気持ちいいじゃないですか。そういう、草野球とか草サッカーの、もっと「草」なやつがあるといいですね。野良野球みたいな(笑)。途中で帰る人がいても、増えてもいいし、出入り自由だったら面白い。ゲーム性が出ていいですね。

斉藤:そう。「〜ねばならない」ということを限りなくなくす。

田中:もしかしたら、今の若者はオンラインゲームとかでやっているのかもしれないですが、そういう細いつながりをいっぱいつくっていけばいい気がします。
 僕は市民講座で話す機会もあるのですが、来ている女性たちは、十年来の親友かというくらい親しげにしゃべっています。「知り合いですか?」と聞くと、「いや、今日会いました」という答えが返ってくる。男の人は、始まるまで本当にしーんとしていて、終わると一目散に帰っていく。でも、その講座のテーマは、地域で友達をつくろうという内容だったりするんですよ(笑)。

斉藤:男性ばかりの性犯罪者の治療グループでも、こちらから枠組みを決めないとしゃべらない。例えば、最初の導入は二人一組で近況を分かち合うとか決めないと、横の人と一度もしゃべらずに帰るというケースも多いですね。

田中:やっぱり男性は雑談が苦手でうまくできない。だから、男の人もちょっと、天気の次の話題、もう一手ぐらい持っていてもいいんじゃないかと思います。男性にとって、おしゃべりは無駄なものという意識がある。おしゃべりする訓練がされてないから、なかなか難しいところがあるのかもしれないですね。

斉藤:女性同士の場合は、初対面でも、会ったその場でしゃべったりするぐらいだったらわりとできますよね。

田中:そういう風に角を立てないで、そこそこ会話を交わす能力、日本の社会ではいわゆる「女らしさ」ととらえられている、他人と協調する能力を、男性ももうちょっと身に付けてもいいのかなと思いますね。

斉藤:それがまず第一段階でできないと、さらに突っ込んで、自分の問題や思いを話すことは到底できないですよね。それは今の学生たちもそうですか。

田中:学生たちも多様化しているので、男子はこう、と一つの傾向をとらえるのは非常に難しいですね。
 それでも皆に共通しているのが「とにかく就職はする」ということです。男子は就職して、就職したら定年まで働くんだということは揺るがない。日本において、彼らには「働かない」という選択肢は与えられないんだな、と、改めて「男らしさ」の縛りの強さを感じます。
 そう考えると、彼らがその後の人生のどこかで、アルコール問題を抱えることは十分にありえますよね。40年働くことを、しらふで乗り切るのはなかなか過酷なことじゃないですか。心を麻痺させる手段の一つとして、お酒を飲むという選択肢はかなり上位に来る気がします。

斉藤:今日お話しして、アルコール問題の背景には、「男らしさ」という心理が少なからず関係していると感じました。アルコール依存症をジェンダーの問題として正面からアプローチしてこなかったのは、アルコール臨床に関わっている人にも男性が多いからかもしれません。要は男性の臨床家が、そこに向き合うとしんどい部分があるんでしょうね。
 結局は自分の問題として向き合うことになるため、だから気づいてはいたけれど、深掘りしてこなかったという面もあったのではないでしょうか。自分自身も含め、そこは大きな気づきでした。
 アルコール問題へのアプローチとして、「弱音を吐けない」「認めない」「相談できない」「つながれない」という、「男らしさ」に根ざした特性を理解することは非常に有効だと思います。

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田中俊之

たなか・としゆき
1975年生まれ。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。博士(社会学)。
男性学の視点から、男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。
著書に『男性学の新展開』『男がつらいよ——絶望の時代の希望の男性学』『〈男〉はなぜ嫌われるか』『男が働かない、いいじゃないか!』『男子が10代のうちに考えておきたいこと』などがある。

斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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