2020.10.4
川村エミコの15年にわたる奮闘〜「声が出ない!私が舞台に立った日」
「舞台に立つ人」と答えられなかった幼稚園の私は引っ込み思案という事を除いてはスクスク健康に育ちました。小学、あれは3年生の緑が綺麗な春だったかと思います。父とショッピングモール横のだだっ広い芝生にお買い物終わりで休んでいました。
元々白だったであろう少し汚れた、ツルっとしたペンキが塗られたステージにお姉さん、お兄さんが登場しました。
「良い子のみんなー! これから大声大会をやりまーす! 参加してくださーい!」
芝生で遊んでいたちびっ子やレジャーシートで休んでいたちびっ子、バドミントンで遊んでいたちびっ子がステージにわぁぁっと集まって行きました。
お父さんが「えみちゃんも行っておいでよ!」と言いました。
私の夢は変わらず舞台の人でしたし、声を出すのがとにかく苦手だったので、「今日こそは!」の気持ちで意を決して並びました。
右側裏に1列に並びました。幼稚園児から小学校高学年くらいの子達です。
ステージにはデシベル測定器が置いてあって、お姉さんが向けてくれるマイクに向かってちびっ子が大声を出すと、機械が反応。
お兄さんがデシベルを読み上げ、「元気が一番! ありがとう!」と言って、左側からステージを降りて行くというシンプルなものでした。どんどん順番は回ります。
「58デシベルー! ありがとう!」
「さぁ、次のお友達! どーぞー!」
私です。私が次のお友達です。
「お友達じゃないですけど。今日初めましてですけど。」とまた余計な事を思ってしまいました。
そんな事を思いながら、パタパタパタパタパタという表現が合いそうな足取りで静かにステージ中央に立ちました。
広い芝生がステージの上からだとさらに広く見えて、寝転んでいる人や立って見ている人達が計算したかのようにバランスよくいるように見えて、芝生と人々とがとても綺麗で一瞬見惚れました。
お兄さんの「さぁ、お友達、どーぞぉー!」の「ぞぉー!」が高く上がる言い方の合図と共にお姉さんのマイクに向かって声を出します!
息を吸って、「さぁ!」いざ声を出そうと思ったら、まさか、なんと、声が出ないのです。
なんともかんとも困りました。
またあひるの紙に夢を書くあの日のように胸が熱くなりました。火の玉参上です。
「あーーーー」声が出したくても出ないのです。
お姉さんが優しく小さい声で言ってくれます。
「あーって言ってごらん。」
まばたきでうなずいて、心の中で「せーの!」で、
「あーーー」
すっごぉぉくうっすぅぅい声が出ました。私の中では出たつもりでした。
しかし、デシベル装置は「ゼロ」を表示していました。
声は出ていなかったのです。その時、一瞬の静寂がありました。無音。そして、風もありませんでした。時が止まったかと思いました。
お兄さんが「えっとぉぉ、ゼロデシベルでーす!」
自分でもびっくりしました。
ゼロデシベル……ゼロってあるんだ。
声出てなかったんだ。愕然としました。
自分の耳を疑いましたが、現実でした。
首が漫画みたくガックシとなり、下を向いて左側からステージを降りました。お姉さんの困り顔が思い出されます。
あひるの紙に夢を書くあの日に続き、芝生の白いお城みたいなステージでの大声大会でも、声を出せませんでした。
父の所に戻ると「何やってんだよ!」と笑っていたのが救いでした。「出なかった。」と私が言うと、「今出てるじゃん!」とまだ笑っていました。