2020.10.4
川村エミコの15年にわたる奮闘〜「声が出ない!私が舞台に立った日」
「まだー?まだー?」と言っていた私の次の女の子は先生が聞く前に「ケーキ屋さん!」と答えていました。クラスではお花屋さんとケーキ屋さんが大ブームでした。
答えられない時、息もままならなかったみたいで、鼻でスススン、ススススン!と2回空気を吸って、スゥーっと吐いた後、「なんで声に出せないのだろう。」と落ち込みました。落ち込んでいたら、最後の子が終わって先生がまたすぐやって来ました。
「えみこちゃん、決まったかな? 将来の夢は何かな?」
「将来の夢って言うか、今の現時点での夢ですけど。」とか余計な事を思いながら、先生の持っているあひるさんの紙の顔を睨みつけていっぱい念じました。
「舞台に立つ人、舞台に立つ人、舞台に立つ人になりたいです。」何度心の中で言っても、届かないです。声が出ないです。
先生が大きなため息をつきました。
その時、私の中で「あーもう時間切れだ!」思いました。
「ぶ」になっていた唇をほんの少しだけ顎を開いて、動かし、「お、お、お、お、は、な、屋さん」とあひるのポテってとした可愛らしい顔を苦虫を噛み潰したような顔で、睨みつけながら答えました。
自分で思ったよりも低い声だったのにビックリしました。
それはそれは辿々しく、「お花屋さん」と答えました。
先生がワントーン声を上げて「はーい! なれるといいねー。」と言ったと同時に「はーい!」の明るさの中に(さっさと答えろよ)の丸カッコが聞こえました。
その時の情景を今も覚えていて、心の中だとすぐにタイムスリップ出来ます。あの時なぜサラッと皆みたく答えられなかったのか今でも後悔しています。すぐ答えられなかったこともですが、本当の事を恥ずかしくて言えず、「お花屋さん」というブームに乗ったことが何よりの後悔です。今更、後悔したって仕方ないのにです。
次の月の1月。同じ幼稚園に通う2コ下の3歳の弟がお誕生日なのですが、そのお誕生日イベントの時、ステージでそれはそれは大きな声でハキハキと「大きくなったら、ウルトラマンになりたいです!」と言っていました。弟が言ったと同時に、年長さん達はみんなウルトラマンにはなれないことを知っていたので、笑いました。
先生は「そんな笑っちゃダメよ!」の意味を込めて、「拍手~!」と言いました。弟は笑われていたけど、真っ直ぐ前を向いて、堂々としていました。
すごいと思いました。背も一番前で小さかったのですが、いつも堂々としていました。
弟は優秀で、幼稚園の学芸会ではシンデレラの王子様に抜擢され、IQテストではトップクラスだったらしく、お母さんが嬉しそうに「まーくんがね、まーくんがね。」言っていたのを思い出します。
弟の学芸会のビデオを親戚のお家で見た時のみんなの嬉しそうな顔ったらなかったです。
シンデレラは恒例の演目でして、いとこが「えみちゃんは学芸会何やったの?」と聞いてきて、「聞かなくていいよ、やめてくれよ。」と思いながら、「舞踏会に来てた人」と答えました。それともう一つ、ホウキだかモップだかの掃除道具の役もやったことは隠しておきました。
まーくんはその後も自分の心に真っ直ぐに向き合い堂々と前を見て、夢を聞かれたらハキハキと答え、大人になった今、それを叶えているので、これまた本当に尊敬なのです。(ウルトラマンではありません。)それはまた別のお話です。