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竹内佐千子と三人の担当編集者――『沼の中で不惑を迎えます。』刊行記念座談会

『沼の中で不惑を迎えます。』は連載中からチェック

エイチ 『沼』の連載中は、お二人がとても面白く読んでくださっていると、竹内さんを通してお聞きしていまして、とても心強かったです

M田 私、毎回読んでいて、すごいな……こんなに竹内さんはいろんなことを考えて生きているんだって驚きました。自分の浅はかさを考えさせられたというか。あと、エイチさんのインパクトが強すぎて、私はもう、引退した方がいいかもしれないって思いました。

エイチ 私は最初、担当編集者がこんなに出てくるエッセイになるとは思っていなかったんですよ。でもコミックエッセイにおいて、「担当編集者いじり」ってある種定番と言えばそうだし、これはM田さん級のインパクトを出さないとまずいんじゃないか、って変な気負いが出てしまったのはありますね。あと、M田さんはご自身をどう描かれても全く直さないとお聞きして、編集者としての器の大きさに感嘆しました。ちょっとなたを振り回しているくらいでどうこう言っちゃダメだと(笑)。

M田 ここは描かないでほしいとか言ったことは、確かに一度もないですね。漫画が面白くなればいいと思っているので。よく、「エッセイに描いてあることは本当にあったことなんですか?」と聞かれるんですけど、全部本当のことです。ただ、なんでこんなに面白く描けるんだろう、とはいつも不思議で。

A達 私も時々竹内さんに、俳優さんや声優さんの取材のレポート漫画を描いてもらったりするんですけど、竹内さんって周りにいる人をめちゃくちゃよく見ているんですよね。誇張してないっていうのは本当にそうで、その場で起きたことを過不足なく、かつ面白いポイントを凝縮して描く能力は本当に信頼しています。
『沼』は、わかり合えない他者との対話の漫画ですよね、全編通して。私は竹内さんのことを知りすぎているので、こんな風に「わかり合えない」ことをお互いにぶつけ合っている漫画って新鮮だなと思って読んでいました。私はオタク側の人間なので、エイチさんの反応とかいちいち面白かったですね。「(オタクは)なんで同じものを何回も観るんですか」って、そこを聞かれるんだ!と思ったり。

オタクか非オタかによって反響が分かれた箇所。今はちょっとだけわかるようになりました! byエイチ (©竹内佐千子/集英社)
オタクか非オタかによって反響が分かれた箇所。今はちょっとだけわかるようになりました! byエイチ (©竹内佐千子/集英社)

M田 セリフもいちいち、すごいですよね。「知らないおばさんの息子」とかもそうですけど、私がお気に入りなのは「生きてきた中で今日が一番年とってる」っていうところ。逆はよく聞くけれど、なるほど確かにそうだなと思いました。さすがだなと。

A達 私は、お父さんのことを描いたエピソード(第3話「実家で暮らし続ける女」)がすごくいいと思っていて。60代父親という生き物の、話の通じなさとか、一緒に暮らしているうえでのストレスとか、ものすごくよく描かれているなと。
私は実際、竹内さんのお父さんにお会いしたことがあるんですけど、本当に漫画に描かれている通りの感じでした(笑)。

エイチ お会いしたことがあるんですか。それはすごい……! 私は梅子(竹内さん母の作中での仮名)と幸吉(竹内さん父の作中での仮名)という、昭和的家族観のご両親が、『沼』の陰の主役だと思っているんです。たぶん、日本中のアラフォーのお父さん・お母さんって、子ども世代に対して理解がないわけじゃないけど、自分たちは昭和の価値観で幸福であろうとしているというか……。その皺寄せを見せられている我々は、ますます「そういうのもういいから」となり、断絶が深いなと。

M田 毎回、いろんなことをひたすら話し合っている漫画なのに、ちゃんと面白いですよね。たたりちゃん(犬木加奈子氏の漫画『不思議のたたりちゃん』)のパロディとか、急に『犬神家の一族』風になったりとか。たとえも最高に面白い。竹内さんの漫画家としての能力が存分に発揮されていると思います。

エイチ 私は漫画の編集はほぼ初めてだったので、絵やコマ割りに関しては、竹内さんにお任せで。やりたいことが全部通る!という状態だったので、きっとのびのびと描いていただけたのではないかと(笑)。

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竹内佐千子

たけうち・さちこ●漫画家。おっかけ対象が男子で恋愛対象が女子のレズビアン。
自身の恋愛体験を描いたコミックエッセイをはじめ、おっかけ、腐女子、などをテーマにしたコミックエッセイを描き続け、最近はストーリー漫画も描いている。
赤ちゃん本部長』(講談社)、『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』(ぶんか社)など。
ホームページhttp://takeuchisachiko.jp/
Twitter @takeuchisachiko

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