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【怪談動画付き】カーナビに導かれた先は…『海の怪』より「言われるがまま」

【怪談動画付き】カーナビに導かれた先は…『海の怪』より「言われるがまま」

 あれだけ光を遮っていた木々が途絶え、草に覆われたなだらかな斜面が広がっている。
 草むらの中に並んでいるのは墓標だ。
 導かれて向かった先がまさか墓地だと思わなかった僕たちは、言葉をなくし一瞬その場に立ち尽くした。
 次の瞬間には、ヤバいぞ、早く帰ろうとそそくさと車に乗り込んだ。
 そして、試しにもう一度宿の電話番号を入力してみると、また宿とは違う場所が表示された。

 怖さもあったが、好奇心がそれに勝った。
「行ってみるしかない! 今度はここが目的地だ!」
 恐怖心にふたをして、あえてふざけた言葉を発し、新たなゴールに向けて車を発進させた。
 既に頭の中には、近辺の大体の地図は描けている。次の目的地が、宿の場所を示していないのは明らかだ。それでも怖いもの見たさで、カーナビの言いなりになって車を進める。

 道沿いには川が流れている。その川沿いをずっと進んでいき、ある地点で車を停めた。
 カーナビの旗が立っている場所は、川の向こう側にある山の斜面だった。対岸まで50mは離れているだろうか、そこまで行く橋なども見当たらない。つまり、目的地に行くには歩いて川を渡るしかない。

 目を凝らしてみると、斜面の杉の木立の中に、一本だけ異様に背の高い杉が飛び出していた。そして、その杉の根元周辺に、例によって不自然にあいた草が生い茂ったスペースが見える。
 カーナビが指し示す場所はそこだ。
 何か青いものがはためいているのがわかる。
 目を凝らしてよく見ると、それは土に埋められたブルーシートの一部で、風を受けてはまるで手招きするようにパタパタと揺れているのだった。
 言葉もなくそのブルーシートを見つめているうち、頭の中でひときわ美しい桜の木の下には死体が埋まっている……、というイメージが肥大していった。僕たちは、これ以上、カーナビによる深追いはしないで、宿に戻り、温泉に浸かって酒を飲むことにした。
 翌日、出港して、瀬戸内海を目指して鳴門海峡を北上するうち、山肌を覆う墓石とブルーシートの記憶は、潮に吹かれて薄くなっていった。

 宇宙飛行士が地球から月に行くとき、定められた軌道を進むにつれ星座がどのように変化して見えるのか、事前にシミュレーションを行うという。その訓練を受けておけば、もし軌道をそれたとしても違和感を抱くことができる。機械が軌道を修正できないのなら、そのときは自分でやらなければならない。
 かつて、アポロ13号が事故を起こしたときも、宇宙飛行士はマニュアルに切り替えた。
 人間は、きちんと野性の勘を養っておいたほうがいい。今後、AIが生活に溶け込んできたとき、すべてをAI任せにするのは非常に危険だ。自分の判断力を失えば、気づいたらAIに使われる存在にもなりかねない。
 AI……己の意思ならぬものに導かれた先が、死の淵であると気づいたとしても、打つ手がなければ生を諦めるほかない。

見て聴いて、さらに震える…実話怪談動画

「言われるがまま」の下地となった実話怪談を鈴木さんが披露します。
心してお聴きください……。

貞子よりも恐ろしい…海をめぐる18話

ホラー界に金字塔を打ち立てた鈴木光司さんが、実話をもとに語る海への畏怖と恐怖に彩られた18のエピソード。
世界を船で渡った男だからこそ知る、海の底知れぬ魅力とそこに秘められた無限の恐怖とは……。
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鈴木光司

すずき・こうじ●1957年静岡県浜松市生まれ。作家、エッセイスト。90年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。91年の『リング』が大きな話題を呼び、その続編である95年の『らせん』では吉川英治文学新人賞を受賞。『リング』は日本で映像化された後、ハリウッドでもリメイクされ世界的な支持を集める。2013年『エッジ』でアメリカの文学賞であるシャーリイ・ジャクスン賞(2012年度長編小説部門)を受賞。リングシリーズの『ループ』『エッジ』のほか、『仄暗い水の底から』『鋼鉄の叫び』『樹海』『ブルーアウト』など著書多数。
「鈴木光司×松原タニシ 恐怖夜行」(BSテレ東)期間限定放送中。

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