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承認欲求型ヤリマン女〜尻軽にも色々学ぶことがある話

承認欲求型ヤリマン女〜尻軽にも色々学ぶことがある話

で、地雷は「それってあなたが誘ったからでは?」というツッコミで、彼女たちの世界では自分から誘うなんていうことは最大の屈辱にしてタブー。どんなに事実を折り曲げても、誘ったのは彼であって私が彼を好きなわけじゃない、彼が私を好きなの、そしてやりたいのも彼であって、私はイヤンと言わずについて行ったというストーリーを作りたい。
そのストーリーにとって都合の悪い真実はどんどん土に埋められる。
それはもうコンマリばりの片付け能力で、出来上がったストーリーは整頓されていてときめきに満ちている。

私より5歳下で、とあるショップの広報担当をしているオンナは、年に5回以上は知り合ったばかりの男と肌を重ねるという事件を起こす。
だからと言って彼女は「アイツとヤっちゃった」みたいに下品に報告することはなく、「それで、しつこくて、彼女と別れるって言い出して」とか、「仕事でちょっと病んでて二秒でいいから会いたいって言われて」とか、「なんか凹んでたら家までクリスピークリーム全種類届けてくれて」とかいう話の中に「それで泊まったんだけど」「ホテル行くことになって」と控えめかつさりげなく自然にヤった話を織り込んでくる。

彼女の話を文字通りまじめに受け取ると、知り合った男の人を夢中にさせちゃう魔性の女像が浮かび上がり、モテるんだなぁとか男を狂わせるタイプなんだなぁとかいう感想を吐きがちなのだけど、もちろんどんなにモテる女も知り合った男の人のハートを掴む女も別に普通に生きていれば、逃げられないほどセックスを迫られる機会に日々突入することもないですし、そもそもハートを奪うような出会い方っていうのは大人の女には結構レアで、世の多くの女が「出会いがないわぁ」とか言っているところ、仕事関係でもない、すでに友人でもない、健康体の男と、しがらみもなく2人きりで出会うなんていうことはまぁあんまりない。

色々からくりを見てみると、彼女の出会いは結構パターン化されている。例えば、有名人というほどではないけど多少名前を知られているような、SNSのフォロワーも結構多くて自己主張強め意識高めの投稿をしがちでタレント事務所に入っているわけじゃないのに何故か宣材写真ぽい写真があってそれをアイコンにしているタイプの男をフォローし、あえて強めの支持コメントを付けてリツイートしてみたり、彼の名前を賞賛とともにツイートしたりして、彼が「ありがとうございます」なんて言ってコメントを返してくるのを待つ。
返してきた時点で、彼女にとっては「ツイッターで会ったことのなかった人に絡まれた」というストーリーが始まっている。そこからダイレクトメッセージなどで会う段取りをつけるらしいのだが、「さっきは返信ありがとうございました、いつもツイッター見てます」という彼女から送る最初のメッセージだけは彼女の記憶や話の中からいつのまにか綺麗に消えている。

或いは、仕事で直接的に関係したというより、仕事上たまたま会った人などのSNSをフォローしたり友達申請を送ったりして、今日はありがとうございました的なメッセージを待つ。そこで向こうが、また会える機会を楽しみにしていますとか、ご飯でも行きたいですねとか、そういう社交辞令を送ってこようものなら、彼女の中で「仕事でたまたま会った人にしつこく誘われた」ストーリーが始まる。
わりと普通だと社交辞令は社交辞令で返しがちなのだけど、ストーリーを生きるタイプの彼女はいちいちすぐに「じゃあここなら」と日程を提示し、具体的行為につなげる。

意地悪な女の分析なんか聞かなくていい
意地悪な女の分析なんか聞かなくていい

そうやって色んな罠を張り巡らせて、彼女は出会ってもない人にまでその魅力によって求められる、という凄技のモテ女となっていて、その事実によって私は生きるに値する、とこの世の何かに承認された感を得て生きているのだけど、よほど意地悪な友人が、彼女の寝たオトコに、「どうやって出会ったの?」とか「ほんとにあなたからしつこく誘ったの?」とか聞くようなことをしなければ、詳しいいきさつが明るみに出るようなことはないのだし、実際に彼女は今日も男に欲望された、明日もまた男に欲望される、と思って自分の価値をちゃんと実感しているのだし、ツイッターで「良いチームとは」みたいなことを呟いている変なオトコが本人の与り知らないところで勝手に「彼女をしつこく誘ったオトコ」になっていようと、仕事で知り合ったオンナに社交辞令を言ったら「ナンパした」ことになってるオトコがいようと、別に誰もかまやしないし、むしろ本人たちだってそこそこ可愛くてお尻の大きいオンナと一晩過ごせてラッキーなわけだから、誰のことも傷つけていない。

出会いがないとかいいオトコがいないとか言ってるオンナたちは、彼女の社交辞令をナンパにする魔法やSNS上のファンからファムファタルに勝手に変身する魔法を学んだらいいんじゃないかとも思う。
私のような意地悪な女友達さえいなければ、からくりなど明かされないままに、出会いもモテ気分もセックスも手に入れられるわけだから。

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新刊紹介

鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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