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『全裸監督』本橋信宏と『限界風俗嬢』小野一光が教える「相手の心を裸にし、本音を引き出すインタビュー術」

時間の経過がドラマを生む

本橋 『限界風俗嬢』、この本がいいのは、年月の経過があるってことですよ。

小野 時間軸がすごく長いんですよね。20年ぶりに会った子もいますから。

本橋 時間が経過したり、人間関係をこうやって有機的につなげれば、そこにドラマが生まれるから。1回こっきりのインタビューじゃ見えないところがある。
風俗って出入りが激しいから、女の子はすぐ消えちゃうじゃないですか。よく長い間連絡が続くよね。20年前に取材した女の子なんて、連絡先すら残ってないでしょう、普通は。

小野 取材した人の連絡先は全てメモして残してはいるんですが、彼女の場合は、それがつながったんです。携帯番号の頭が、090じゃなかった時代ですよ。それは僕も奇跡だなと思いました。彼女は20年前に女子大生だった時に風俗をやっていて、それから社会人になって、以後は全然風俗とは接点なく暮らしていて。彼女が当時のことをどう評価するのかっていうことを知りたかったんです。

本橋 風俗をやっていた過去って、もう掘り起こしたくないというか、取材を受けてくれない人がほとんどだろうからね。

小野 そうかと思うと、20年ぐらいずっと風俗で働き続けてる女性もいるので、それがほぼ同世代だったりするのが面白いなと思って。

本橋 結局、女性を描くときって、共通項ってあんまりないんですよね、実は。一人一人ばらばらなんですよ。

小野 そう。女性ってひとくくりにできない部分がすごくあって。個別具体のケースを出していくしかない。

本橋 これだけは外せない質問とか、決め時の質問ってありますか?

小野 質問自体では特にないですけど、いわゆる聞きづらい内容ってありますよね。僕は、向こうの様子を見ながらなんですけど、直接真正面から聞きますね。普通、ここまで大胆なこととか、憚られるようなこと聞かないだろってことを、あえて軽く切り出したりとか。

本橋 そうすると相手はどういうリアクションですか?

小野 意外と向こうも、そのことに関してはストレートに返してくるんですよね。逃げないというか、隠さないというか。向こうが隠したがってるだろうことに関してこそ、堂々と正面から聞くってことをやったりすることはあります。

小野さんの取材相手は、連続殺人犯や事件の関係者など、「ウェルカム」な状態ではない人の方が多い。臆せず、しかし柔らかに相手の心に踏み込んでいく。
小野さんの取材相手は、連続殺人犯や事件の関係者など、「ウェルカム」な状態ではない人の方が多い。臆せず、しかし柔らかに相手の心に踏み込んでいく。

どこに埋まっているかわからない「地雷ワード」

本橋 でもさ、長年人の話を聞いていても、何が相手の地雷かってわからないですね。

小野 それはわからないですね、いまだに。失敗から学ぼうとはしますけど。この一言があったがために全部台無しになるっていうことありますもんね。

本橋 読めないね。自分が思いがけずに相手の地雷を踏んじゃったなってことありました?

小野 ありましたね。風俗嬢の女の子が自分の外見の話をしてて、「私、こんなだから……」って言ったんですよ。だから僕が、「いや、大丈夫」って受けたんですね。その「大丈夫」が駄目だったんですよ。

本橋 「大丈夫」、駄目なの?

小野 駄目でした。大丈夫は、Not badじゃないですか。Goodで返さないと駄目だったんですよね。

本橋 そうか、否定してほしかったんだね、そこで。

小野 だから、それ以降「大丈夫」が地雷ワードになりました(笑)。

本橋 男性の場合は、やっぱりプライドですね。相手の職業とか、やっていることをどうカテゴライズするかとか、そういうところは細心の注意を払わないといけない。「お前は俺のことをわかってない」ってなっちゃうともう、交渉決裂、そこから関係修復するのは難しいよ。

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新刊紹介

本橋信宏

もとはし・のぶひろ
1956年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ノンフィクション・小説・エッセイ・評論と幅広い活動を行う。2019年、『全裸監督 村西とおる伝』がNetflixでドラマ化、世界190ヵ国に配信され大ヒットを記録する。『ベストセラー伝説』『東京裏23区』『高田馬場アンダーグラウンド』『新・AV時代 全裸監督後の世界』など著書多数。最新刊は『出禁の男 テリー伊藤伝』。

小野一光

おの・いっこう
1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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