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注目対談! 『全裸監督』本橋信宏×『限界風俗嬢』小野一光「 ノンフィクションライターの歩き方」

本橋青年の就活記

本橋 私は、74年の秋、高校3年の時に立花隆さんの『田中角栄研究』を読んでルポライターというものの存在を知って。その前から物書きにはなりたかったんだけどね。思い返せば小学生の頃から、なにか物を書いて表現したいなとは思ってた。
あれが『文藝春秋』に出て、田中角栄内閣が吹っ飛んじゃったでしょう。ルポライターってすげえなって。調べてみたら、児玉隆也だとか、平岡正明だとか、竹中労とかいるんで、なんかいいなと思い始めて。
高校を出て早稲田大学に入学してたけど、中退するしかないと。あの頃は、早稲田は中退したほうが出世するっていうのがあったからさ。

小野 じゃあ、初めから出版業界を志して、全学連のことを書いたりとか。

本橋 いや、大学時代にちょっと書いたこともあったんだけど、まさか文章で身を立てるなんて、現実感ないじゃない。だから、なれるかどうかもわかんないしなってことで、取りあえずどこか就職して、何年後かにフリーランスの機会をうかがおうかなと思って、就職試験を受けたんですよ。

小野 マスコミですか?

本橋 そう。出版じゃなくて違う水を泳いでみるのもいいのかなと思って、テレビ局とかプロダクションとかさ。みんな落っこちましたよ(笑)。その中で最大手の芸能プロダクションだけは、1000人ぐらい受けて、最後の7人に残ったんですよ。やったーと思って。でもさ、そこで2泊3日の合宿があるって言われて。そこの会長って、日蓮宗かなんかの信徒だったみたいで、そこで座禅を組むと。お前ら7人はもう受かってるから全員参加だと。

小野 内定だと思って行ったわけですよね。

本橋 でもさ、行ったらやっぱり自分はここじゃないと。

小野 これが会社入ったらずっと続くのかって思いますもんね。

本橋 やっぱ俺、物書きやろうって。そっち行きゃ良かったなと後悔してさ。でも、受かってるのそこしかないからさ。

小野 じゃあ、入社したんですか。

本橋 それが大どんでん返しがあるのよ。その3日間の合宿が終わって、最後に会長が来て挨拶して解散、となった時に、担当の監督官が妙に深々と礼をしてきてさ、あれ、妙に他人行儀だなと思ってたら、落ちた。しかも私の時は、その知らせが電報で来るわけ。電報局から電話がかかってきて「ペンのご用意を」とか言われて。

小野 自分で聞き取るわけですか。

本橋 そう。「あいうえおのあ」とか何とかってさ。残念ながら……とか言われて、本当、ドラマみたいに鉛筆ポトンと落としたよね。何これって。仕方ないから、知り合いのテレビディレクターに頼んで、制作会社に入れてもらうことになって。それがテリー伊藤さんなんだけど。

小野 IVSテレビですか。テリー伊藤さんとはどうして面識があったんですか?

本橋 20歳の頃に、大学対抗芸能合戦っていう番組を企画をするっていうんで、声をかけられたのが始まりで。もともと私は当時人見知りで非社交的だったんだけど、伊藤さんとは不思議と馬が合って。また明日来いよ、行きます、みたいな。
でも、仕事がきつくて、3ヵ月で辞めちゃった。その後、イベント制作会社に入って、そこに1年半いて、フリーになった。それから40年、なんだかんだ食えて今に至るわけです。

本橋さんとテリー伊藤氏との交流は40年以上。このたび、伊藤氏のテレビディレクターとしての半生を取材した『出禁の男 テリー伊藤伝』をイースト・プレスより刊行した。
本橋さんとテリー伊藤氏との交流は40年以上。このたび、伊藤氏のテレビディレクターとしての半生を取材した『出禁の男 テリー伊藤伝』をイースト・プレスより刊行した。

白夜書房という名の「楽園」

小野 僕も不思議ですけど、21の時に、白夜書房にバイトで入って。
もともと、『写真時代』っていう雑誌が中高生ぐらいの時から好きで、『写真時代』を作ってる会社だったら、こんなろくでもない人間でも受け入れてくれるだろうと思って、飛び込みで電話を入れて、それで面接を受けたんです。
面接した末井昭さんに、「小野君、今度パチンコの本出すんだけど、エロ本とパチンコ、どっちがいい?」って聞かれたんで、「エロがいいです」って。それでエロ本の編集部に配属されました。

本橋 ギャンブルにはあんまり興味ない?

小野 そう、だったらエロがいいですって言いまして。
その頃の白夜書房は高田馬場4丁目にあって、まだ末井昭さんも中沢慎一さんも同じフロアで仕事をしてる時期でした。ずっと会社の仮眠室で寝泊まりしながら、毎日が遊びの延長みたいな感じで、とにかくあの頃は楽しかったですね。

本橋 あの頃の白夜書房はそうだよね。楽園だよね。趣味がそのまま仕事になるっていうか。優秀な書き手がいっぱい揃ってたよ。東良美季さん(編集部注:編集者、AV監督、作家の東良美季氏)もその頃いたんじゃないの?

小野 東良さんも一緒にいましたね。あとは、能をやりながらエロ本の編集をして、後にAV監督になった市原克也さんとか。

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新刊紹介

本橋信宏

もとはし・のぶひろ
1956年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ノンフィクション・小説・エッセイ・評論と幅広い活動を行う。2019年、『全裸監督 村西とおる伝』がNetflixでドラマ化、世界190ヵ国に配信され大ヒットを記録する。『ベストセラー伝説』『東京裏23区』『高田馬場アンダーグラウンド』『新・AV時代 全裸監督後の世界』など著書多数。最新刊は『出禁の男 テリー伊藤伝』。

小野一光

おの・いっこう
1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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