2021.8.29
ベストセラー作家・橘玲さんが『となりの億万長者』を読んで悟った「真の自由」を手に入れる方法
資産は、収入の多寡では決まらない
この本には、3000万円を超える年収を得ながらほとんど貯蓄がなく、将来の不安にさいなまれている医師が登場する。その一方で、公立学校の教師として働きながら50代でミリオネアの仲間入りを果たし、退職後の優雅な生活が約束されている夫婦もいる。このようなことが起きるのは、資産とは収入の多寡によって決まるのではなく、収入と支出の差額から生み出されるものだからだ。
アメリカの典型的な億万長者は、ニューヨークのペントハウスではなく、労働者階級の暮らす下町のありふれた家に住んでいる。彼らは安物のスーツを着て、頑丈だが燃費のいい車を乗り潰し、周囲は誰もこの質素な一家が億万長者とは気づかない。だがこれは考えてみれば当たり前で、お金を使えばお金は貯まらないのだ。
スタンリーとダンコは、「収入の10~15%を貯蓄に回す倹約を続けていれば、誰でも億万長者になれる」と説く。正確には「平均年収の倍の収入」が必要だが、これは夫婦2人で働けば達成できるだろう。
日本の平均的な(大卒)サラリーマンが生涯に得る収入は3億~4億円で、共働き夫婦の生涯収入を総額6億円とし、そのうち15%を貯蓄すればそれだけで9000万円だ。仮に貯蓄率を10%(6000万円)としても、年率3%程度で運用すればやはり退職時の資産は1億円を超える。
そしてこれは、机上の空論というわけではない。
スイスの金融機関クレディスイスが毎年発表している「世界の富裕層」レポート(2019年)によれば、金融資産や不動産資産など総資産から住宅ローンなどの負債を差し引いた純資産で100万ドル(約1億1000万円)を超えるミリオネアは世界で4680万人もおり、この20年間で世界の富は爆発的に拡大した。
アメリカのミリオネアは1861万人で、すべて世帯主として概算すると、総世帯数1億2246万に対して15.2%、6~7世帯に1世帯はミリオネアになる。同一世帯に住む夫婦や親子がミリオネアということもあるからこの数字は過大だろうが、それでも10世帯に1世帯が「億万長者」なのは間違いないだろう。
以下、主要先進国をミリオネア世帯比率で並べると、イギリスが9.3%で10世帯に1世帯、日本が7.4%、フランスが6.9%で14~15世帯に1世帯、ドイツが5.3%で20世帯に1世帯になる。
経済格差の拡大で先進国でも貧困が大きな社会問題になっているが、その一方で、億万長者があなたの隣にいる世界に私たちは生きているのだ。
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