2021.8.29
ベストセラー作家・橘玲さんが『となりの億万長者』を読んで悟った「真の自由」を手に入れる方法
前回は、『何者』で直木賞を受賞した小説家・朝井リョウさんが、しんどさに襲われた時に読む本を紹介してくださいました。
今回は、先日『無理ゲー社会』を上梓した橘玲さんに、三十代半ばで会社を辞めようと考えた際、人生設計への大きなヒントになった本を紹介いただきました。
世の中のお金の仕組みを知るために
「私を救った1冊」というと、精神的な危機に陥った時に“啓示”を受けた宗教書や哲学書をふつうは挙げるのだろうが、ここでは徹底的に世俗的・現実的な本を紹介したい。それがトマス・J・スタンリーとウィリアム・D・ダンコの『となりの億万長者 成功を生む7つの法則』(早川書房)だ。
私にとっての「危機の年」は阪神・淡路大震災とオウム真理教事件が起きた1995年で、それまで勤めていた中堅の出版社を辞めることを考えていた。といっても特定の理由があったわけではなく、仕事に行き詰まりを感じていたとか、新しいことをやってみたくなったとか、そういうありきたりな理由だ。いちばん大きかったのは年齢で、当時、出版業界では30代半ばが転職の上限とされていた。この機会を逃せば定年までずっと同じ職場で同じ生活が続くというのは大きなプレッシャーだった。
笑われるかもしれないが、そのときはじめて、生きていくにはお金が必要だという当たり前の事実に気づいた。それまでは、好きなことをやっていれば会社が銀行口座にお金を振り込んでくれるのだと思っていた。だったら、会社を辞めたら誰がお金を払ってくれるのだろうか。
こうして、35歳にしてはじめて人生設計について真剣に考えざるを得なくなった。それ以前に、世の中のお金の仕組みについてなにも知らないことに気づいて、慌てて本を読みはじめた。
最初に大きな衝撃を受けたのは投資家のR・ターガート・マーフィーとエリック・ガワーの『日本は金持ち。あなたは貧乏。なぜ?』(毎日新聞社)で、そこでは「自由とは経済的に独立していることである」と述べられていた。
私はそれまで、自由は「こころ」の問題で、哲学によって論じるものだと素朴に思っていた。だがマーフィーとガワーは、「お金がなかったとしたら、そこに自由はあるのか」と問う。理不尽なパワハラに耐えてまで会社にしがみつかざるを得ないのも、夫の暴力(DV)にさらされながら離婚を決断できないのも、会社や家庭(夫)に依存するしか生きる方途がないからだ。自立して生きていけるじゅうぶんな資産をもっているなら、理不尽な上司や暴力をふるう夫に我慢する必要などどこにもないだろう。
すなわち、自由には「経済的な土台」が必要だ。逆にいえば、「お金がなければ自由もない」。その後、「経済的独立Financial Independence」はロバート・キヨサキの『金持ち父さん 貧乏父さん』(筑摩書房)によって広く知られるようになるが、“No Money, No Freedom”というこの徹底したリアリズムは、私のそれまでの人生観を一変させたといっても過言ではない。
でも、どうやって資産を形成し、「真の自由」を手に入れればいいのだろうか。この切実な問いに明快に答えてくれたのが『となりの億万長者』だ。
アメリカ全土の億万長者を対象に大規模調査を実施し、〝お金持ちの秘密〟を解き明かそうとしたスタンリーとダンコは、それまでの常識とまったく異なる事実を発見した。お金持ちはぜいたくな暮らしをしているのではなく、あなたの隣にいるのだ。